邦題『裸の拍車』
1868年コロラド州のロッキー山中。アビリーンから来たケンプ(ジェームズ・
スチュアート)が、ならず者ヴァンダーグロート(ロバート・ライアン)を追跡して
いた。ついにヴァンダーグロートの居場所を突き止めたケンプは、たまたま
知り合った金鉱掘りの老人テイト(ミラード・ミッチェル)と元騎兵隊大尉、ア
ンダーソン(ラルフ・ミーカー)の助けを借り、ヴァンダーグロートと彼の情婦
パッチ(ジャネット・リー)を捕える。ケンプは、一人でヴァンダーグロートをア
ビリーンへ連れ戻すつもりだったが、テイトとアンダーソンに高額の懸賞金
のことを知られてしまい、5人の奇妙な旅が始まる…。
アンソニー・マン監督とジェームズ・スチュアートが組んだ5本の西部劇の
うちの3本目。マン監督の西部劇らしい、暗く屈折した人物を主人公に据
えた複雑妙味の傑作だ。フランスの映画評論界の巨人、アンドレ・バザン
は、脚本が完璧であるとして、ジョン・フォードの『
捜索者 [DVD]』と並ん
で、戦後西部劇の中でも屈指の作品と評している。
サイレント期のウィリアム・S・ハートのように、さめざめと泣くことを一種の
お約束場面にしていたヒーローは例外として(バスター・キートンは、それ
を徹底的にパロディにしていた)、正義感に溢れ、どこまでも強いのが西
部劇のヒーローと相場が決まっている。しかし、マン西部劇のヒーローは、
その正反対。暗いトラウマを抱え、自分の欲望によってつき動かされ、時
には涙すら流す。およそ西部劇の主人公にはふさわしくない弱い人間。
そんな主人公で、とうてい西部劇が成り立つとは思えないのだが、それ
を鋭く深い人間観察と生々しく突発的な暴力描写で、実に複雑で魅力的
な一編に仕上げるのがマン監督なのだ。彼の厳しく緊密ながら繊細な演
出で描かれる西部劇は、いつも力強くて、観応え十分。
マン監督は、ケンプのささくれ立った心情を視覚化したような、切り立った
崖、川の激流などの峻厳な西部的景観を背景に(そして、暴力に曝されな
がら)、彼が、人間的な心を取り戻すまでの魂の漂泊の旅を感動的に描い
てみせる。卑小で、あまりに人間臭いヒーローだからこそ、典型的なタフ
な西部劇の主人公とは違い、感情移入、共感しやすいということもあるだ
ろう。観る者は、最初はケンプという人物の屈折して複雑な造形に戸惑う
が、いつしか、この弱く脆い主人公を理解しようという気になる。劇場公開
時より、現代でこそ、より受け容れられやすい人物像かもしれない。
マンの的確な演出に応えて、スチュアートを始め、5人の演技陣(ライアン、
ミッチェル、ミーカー、リー)が、深みある素晴らしい演技をみせている。そ
れぞれのむきだしの感情がぶつかり合って(それでいて、決してオーバー・
アクトではなく)渦巻き、それが作品に何とも言えない緊張感、ねじれた関
係性を生じさせて行く様は、実にスリリング。素晴らしい演出と演技が緊
密に結びついていると言えるだろう。バザンが傑作と評するのも納得の出
来だ。
本DVDは、35mm原版よりテレシネ、レストアされたマスターを使用した
もの。キズやコマ飛びなどはないものの、残念ながら、肝心のカラーが褪
色気味で、全体的にディテールも甘い、ぼやけた画質。本DVD発売の数
年前に、アメリカでは、鮮烈なカラー具合のプリントが上映されたという話
もあるので、この画質の悪さの原因は謎だ。音声は明瞭で特に問題なし。
英語字幕も収録。
特典には、本作の予告編、デイヴ・オブライエンが、現代家具(51年当時
の)の機能に四苦八苦する姿を描いた短編コメディ”Things We Can Do
Without”とリタイヤしたB29爆撃機が、ジェット機時代に取り残されるとい
う、テックス・エイヴリーの楽しい短編アニメ”Little Johnny Jet”が収録。
本DVDは、北米盤ながら、R-All(厳密には、1〜4)仕様なので、日本の
R-2 プレーヤーで、問題なく視聴可能。残念ながら、日本語字幕入りの
ヴィデオが、93年にワーナー・ホーム・ビデオから発売されて以降、正規
日本盤DVDは発売されていないので(ジュネス企画のものは、もちろん
正規ライセンス盤ではない)、この北米盤が、映画ファンにとっての1枚と
いうことになるだろう。