人間の思考は、抽象的な思考を可能にするために写像というプロセスを用いる。身体的経験を土台として抽象概念を具現化しようとする。この写像の原理こそメタファーである。物事の見立てがもっとも基本的な思考においても反映されることを論じた名著である。「愛」を「旅」に、「議論」を「戦争」に。今まで考えもつかなかったようなコロンブスの卵的な発見が目白押しの一冊である。
言語学のみならず、心理学、哲学、人間学に対しても深い影響を与えた本である。これを読んではじめて、認知言語学という理論の幅広い研究の門の前に立つことができるのだ。今読んでも新鮮な驚きがあり、出版された当時の驚きと賞賛の声が目に浮かぶようだ。文学を研究する方にもぜひ読んでいただきたい本である。文学のレトリックの背後には、人間の生と意味の営みが脈々と息づいている。そうした心身一如とでも言うべき本質を考える好機となるはすだ。
もっとも、著者らの「俺たちが一番乗りだ」という精神状態自体には大反対である。現代のメタファー研究の祖としてレディの論文を賞賛しているけれども、それよりもずっと以前にヨーロッパには立派なメタファー研究が存在していた。ヴァインリッヒ、カッシーラー、ぜひ紐解かれんことを。
ちなみに、マックス・ブラックのメタファー論文のほう(Metaphor and Thoughtに所収)が、レイコフたちよりもメタファーの本質を突いている、と思うのは私だけか?