かねてからメンバーが告知していた通り、今回の新作は今までになく「アコースティック」な仕上がりだ。
おなじみの轟音ギターや凝った細工を施した幻想的な音はかなり鳴りを潜め、ナチュラルなギターにピアノ、管絃楽器やパーカッションの数々が響き合っている。
何より印象強かったのは、今までは楽器のひとつのように音の波間を流れていたヨンシーの声が「ヴォーカル」としての立ち位置をはっきりとさせていたこと。音同士が共鳴して溶け合うようなお得意の加工も少なく、演奏全体が骨太になった印象を受けた。
なだれ込む轟音にこっそり隠すように光らせていたポップセンスも最大限に引き出されていて、シガー・ロスの作品としてはかつてないほどRock&Popsとしての強い力を持つアルバムである。
その分、これまでの作品に特徴的だった夢うつつを漂うような雰囲気はあまり感じられないように思う。初めて聴いたときは、幸せな夢から覚めてしまったかのような肩透かしを食らったのも事実である。
しかし、シガー・ロスの音楽が持つものは、決して一辺倒の手法でしか表現できないものではないということが、このアルバムで証明されたようにも感じ取れた。これまでの夢うつつから飛び出してもなお、彼らの生み出す音楽には素晴らしい世界が確かに広がっている。ジャケットにあるような晴れやかな開放感と喜びに満ち満ちた世界が、力強く刻まれているのだ。
まどろまずとも、自分たちの生きる世界はこんなにも美しいのだと、教えられたような気がした。
この作品が「転機」となるのか「異色」となるのか。
いずれにしろ、彼らの長く続くであろう音楽活動における偉大なマイルストーンとなることは間違いない。