メロディアスなアルバムだ、と思う。
歌メロがあまり明瞭でなく、そもそもサビがどこかすら判然としない曲の数々からそんな印象を受けるのは、ギターを中心としたアンサンブルが歌っているからだ。「ヴィーナス」然り、「ガイディング・ライト」然り。
タイトル曲「マーキー・ムーン」がその長さを全く感じさせないのは驚異的だ。ロックに長尺の名曲数あれど、レッド・ツェッペリンの「天国への階段」やビートルズの「ヘイ・ジュード」のようなドラマチックさがあるわけではなく、むしろ小刻みに痙攣を繰り返すようなリフとしゃくとり虫が這うようなリズムで淡々と進む曲だけに、10分にも及ぶという事実にはなおさら驚かされる。間奏も実に長いのだけどヴォーカルが姿を隠すだけでアンサンブルはよりより奔放に歌いだすのでこれまた長さを意識させることがない。全体がひとつの生命体となって、少しずつ形を変えながらうにょうにょと蠢いているいるような感じ。念のため言っておくとトム・ヴァーラインのヴォーカルに難があるわけではない。極めて上質な彼らの音楽をパンク足らしめているのは間違いなくトム・ヴァーラインによる(ヴォーカルというよりも)“声のパート”だ。
だけど何よりも、これだけ緻密に構築された作品がやたらに感情に訴えかけるものになっていることが、真に驚くべきことかも。