桑田佳祐のソロ作品を聴く際に、どうしてもついてまわるのが「サザンオールスターズ名義での楽曲とどう違うのか」という疑問である。サザンオールスターズは休止期間やセールスの波こそあれ、30余年にわたって日本の音楽界の最前線を走るバンドである。途方もなく長い年月の活動を経てファンの年齢層が広くなっているのは言うまでもないが、それこそデビュー曲からすべてを聴きこんでいるコアなファンもいれば、「TSUNAMI」等のようなセールス的に成功した楽曲群のみを好むライトユーザーもいるなど、サザンファン自身の音楽的嗜好も多様になったと言える。「サザンファンはこういう曲が好き」という決まった概念がないのである。したがってサザンはおそらくどのような曲を発表しても、ファンからある一定数の賛辞を得ると同時に、一定数のブーイングが出てきてしまう宿命を背負ってしまった。いわゆる「売れ線」の先行シングルを多数収録したサザン名義の「キラーストリート」が、アルバム曲としてコアなファン向けの楽曲も織り交ぜ、さながら大人から子供まで満足させるテーマパークのような2枚組の大作アルバムになったのは必然かもしれない。
そのように幅広い表現をできるようでいて実はがんじがらめの「サザンオールスターズ」という屋号を離れたここ数年の桑田ソロ作品は、かつて「波乗りジョニー」や「白い恋人達」を発表した頃のような耳触りの良い代わりに焦点がぼやけた感じはない。テーマがはっきりと決まっており、好き嫌いが分かれそうな作品群を様々なベクトルで発表するようになった。方向性が決まっているだけに、近年のソロ作品に「売れ線」の曲はあまり見られない。
そしてこのアルバム「MUSICMAN」であるが、おそらく万人受けする曲はほとんどない。しかし17曲全てがしつこいくらいに個性を主張していて、桑田佳祐が自由に飛び跳ねているかのようだ。過去の曲の焼き直しなど全くない、純粋な桑田佳祐の新世界を味わうことができる。昔からのサザンファン・桑田ファンにとっては間違いなく「面白い」と感じるアルバムだと思う。
一方で、このアルバムを通じて変わらない要素もある。それは「懐かしさ」と「温かさ」である。特に先行シングル「君にサヨナラを」や「本当は怖い愛とロマンス」で顕著だが、このアルバムでは人間の郷愁に訴えるとともに、平凡で愚かしい人間の生き様を肯定してくれる温もりがある。
桑田佳祐は天才であることは間違いないが、決して別世界にいるようなスターではない。大学時代にデビューし、やがて家庭を築き、そして幾多の波を経ながら老いに入りつつある桑田佳祐(あるいはサザンのメンバー)の30数年を通して、ファンは自らの人生を桑田佳祐の姿に投影している。そうした彼の最新作が、野心的なだけでなく温もりに満ちていることが、私は嬉しくてたまらない。