「昴」はストーリをつくるのがものすごく大変な漫画だと思う。ふつうのバレエ漫画なら、ライバルとの対決やバレエカンパニー内での競争などを描いて主人公の成長を描くものだが、昴はそういう既定路線を踏まない。ただ己の中で如何に納得のいく踊りに近づいていくかが描写される。しかもあまり言葉による説明をつけずに。私はバレエのことは何も知らないが、この作品を読んでバレエの奥の深さやその表現の無限の可能性に触れることができた気がする。昴の11巻が出て五年。もう作者はバレエについて描ききったものと思っていた。11巻に登場したFBI捜査官はまさに作者の分身であった気がする。昴の心情を完璧に理解し、彼女がこれから使うお金の額まで完璧に予言できる人物。作者と昴が深い恋仲に陥ろうという異質な展開の一歩手前で作者は全てを停止させ「バレエとは何か」という哲学的な思索に終止符を打ったかに思えた。今回の新刊は五年前の行き詰った展開を打破し、再びバレエ哲学の新たな旅路に着いた意欲作である。・・・なんて意気込まなくても、誰が読んでも楽しい一冊だと思う。超おすすめ。