このアルバムは、当時のアイドルとしては非常に珍しいと思われるセルフプロデュースのコンセプトアルバム。作詞は全曲、斉藤由貴本人によるもの。行き先の分からない不思議な廊下に迷いこんだ女性が次々と扉を開け、そこで見た光景を歌うという内容で、楽曲、詞、歌唱ともアイドルのアルバムというにはあまりにもクオリティが高い作品です。このアルバムからは一曲もシングルカットはありませんが、非常に佳曲揃いで一枚通してすっと聴けます。
この作品から感じられる彼女の鬼気迫るばかりの創作意欲、溢れんばかりのイマジネーションやクリエイティブなモチベーション…。一体どこからこんなパワーが沸いてきたのだろう?このアルバムはアイドル斉藤由貴がさらに別の次元へと脱皮する時期に発表されたこともあり、セールスはいまひとつ振るわなかったかもしれないが、賛美歌のような「永遠」、デカダンな雰囲気の「大正イカレポンチ娘」、光景が眼に浮かんでくる「少女が春の縁側で」、名曲の域に達している「回転木馬」、幻想的な「プラハリアン」、妖艶な雰囲気の「迷宮」、ニューヨークの朝の風景を歌った「Walkin' through your life」など、捨て曲はまったくない。また板倉文さんを中心とした編曲も、これまでの武部聡志さんと一味違った味わいで楽しめる。僕はこのアルバム、名盤だと思います。
20数年前、斉藤由貴さんは美しくそしてつかみどころのない不思議な魅力をもったアイドルであり、女優であり、歌手だった。そんな彼女が明らかにアイドルからアーティストとしての自覚を持って製作に取り組んだのであろう意気込みが感じられる一枚。そしてこの時期、彼女が日本の多くの若者たちから熱狂的な支持を受けていたカリスマシンガーソングライターと恋に落ちてしまった理由も分かる気がします。