主に80年代において、EP-4の佐藤薫氏が関わった作品を集めた壮大なオムニバス。EP-4本体や佐藤氏個人名義といった直接的に演奏に携わったものもあれば、プロデュースとしてバックアップしたものまで様々で、楽曲もクールでファットなアレンジのニュー・ウェイヴから、曲の体をなさない真性のノイズ、今でいうところの不思議ちゃん系女性ヴォーカルのポップなナンバーまでヴァラエティ豊か。ほとんどが当時は12インチやカセットなどで発表されていた、貴重な音源のCD化なので歴史的な価値もとても高く、まさに“お宝発掘”と言える3枚組となっています。フル・アルバムを出せるだけの力がなくても、技術がなくても面白い作品は作れる、ということを証明したという意味で、本作での佐藤氏の仕事は、ジェイムス・チャンスやウォズ・ノット・ウォズからクリスティーナまでを輩出した80年代におけるNYのZEレコードのアーティストたちの作品と似た印象を受けます。まさに日本のミュータント・ディスコとさえ言えるこの蠢く楽曲たちの奇怪さと言ったら…!
ただし、決してただヘタだったり雰囲気だけ借りてきたり…といった曲がないのが流石佐藤氏。演奏の根幹はどれも実にしっかりしていますし、当時の音処理やアレンジも申し分ありません。佐藤氏はエディトリアル感覚に富んだ才能の持ち主でもありますが、ここでのアイデア満点の音作りは、小さい頃から機械いじりが好きだったという氏の資質が開花したものだと言えます。そのあたりをしっかり紐解いていたブックレットにおける岡村詩野氏の解説も面白かったですし、小暮秀夫氏のアーティスト紹介にもきっちり文字数をとったブックレットも読み応え十分。懐かしいと感じるような古くからのファンよりも、むしろ当時を知らない若い音楽リスナーに聴いてほしいと思います。個人的にはサラスヴァティ、サディ・サッズが今聴いても遜色なく、むしろ00年代におけるポスト・パンク・ブームにさえつながるような印象を受けました。
ところで、ディスクの最後の曲の後には空白がしばらくありますが、ディスクは止まることなく回転し続けます。そして、まさしくグリコ森永事件の犯人が現れるがごとく、隠されたあの問題曲が顔を出しますので購入された方はおしまいまで聴いてみてほしいと思います。そんな仕掛けも佐藤氏らしい、まるでもう一つのEP-4の作品のような素晴らしいコンピレーションです。