東京に長年住む者だが、未だに新宿という街には縁が薄い。それでも昭和時代の任侠映画・Vシネ・小説群を通して触れる「新宿」は、ロ
マンティック、猥雑、そして哀愁といった清濁含む雑多な要素を感じさせ、特異だが惹きつけられずにいられぬ魅力を持つ街である。
最近は新宿をぶらりと歩いても、都市開発が進み裏通りでさえ割と整然と片付けられた現在の街並みからその胸躍る感覚は湧かない。
本コンピレーションは、まさに昭和の時代、若干虚構のフィルターも通し最も輝いていた頃の新宿像への8つのノスタルジーを音で綴った
作品。事前に試聴できず秀逸なジャケットを信じ購入したが、想像以上の出来だったので推薦。
まず参加陣が興味深い。歌手・セラピスト等実際に様々な形で新宿に根付く面子が名を連ねる上、元ピチカート・ファイヴの高浪敬太郎・
キリンジの堀込高樹等職人肌の音楽家、果ては小説家・俳優陣までが集結。異領域の者同士が手を組み各々の形で新宿へのオマージ
ュを見事に形にする。歌謡曲・パンク・シャンソン・詩の朗読まで曲毎に形を変える様は、正に雑多な街・新宿を描いた作品らしい。
幕開けの「深夜+1」、心をぐっと掴まれるムーディな演奏に導かれ「新宿鮫」の著者・大沢在昌による随筆調のフレーズを朗読するはな
んと柄本明。硬質な内容を敢えて飄々とした語り口で語る彼の朗読は味があり意外な位嵌っている。
キリンジ・堀込高樹が提供する「あきらめのボン・ヴォヤージュ」は堀込氏独自の捻りの効いた哀愁歌謡曲で盤中最も聴きやすい。ギャラ
ンティーク和恵による男女の性を超越した歌声で、行き場を求め新宿に流れ着いた者のドラマが語られる。
女性パフォーマンス集団「デリシャスウィートス」が歌うは昭和レヴュー調「イカナポンチ」。疾走するサウンドに乗せ「穴ひらけよ」「花びら
回転」等のぞき部屋の情景を想起させる猥雑な言葉を、素人然りの声で絶叫するおバカなノリが最高だ。
個人的な白眉が痛快ファンク・ロック「新宿LADY」。本業は歌手ではないというボーカル・Pi-koこと安元遊香の蓮っ葉な語り口と色っぽい
囁きを交えた歌、The Permanentsによる骨ある演奏が織り成す哀愁たっぷりのドラマはキマリ過ぎで痺れる。
ここに流れる35分には、酒を呑む男、ゲイバーのホステス、風俗の姉ちゃん、ツッパリの兄ちゃん…ありとあらゆる人のドラマが行き交う。
曲に刻まれたドラマが耳を激しく往来する演劇性の高いコンピレーションだ。