内容紹介
ベルリン在住のアーティスト・花代の5年ぶりの写真集。
「日常」の膨大な「スナップ」からセレクトされた作品は、
いつ頃の写真なのか、何処の何を撮ったのかもはっきりしないことすらある。
壊れかけのカメラ、甘いピント、転んでしまった色……
偶発性はそのまま写し留められ、白昼夢のような表層の奥には、
イメージの純粋な強度が潜む。
私的な記録のかけらが、ひとびとの記憶へと触れていく、
花代の写真の不可思議な力。
レビュー
「装苑」、2008/4思い出さないようなこと
最近の楽しみは、アメリカ議会図書館が保存している、
20世紀初頭に撮られた撮影者不明の写真をFlickrで見ること。
カラー写真が出始めた頃だろうか、
工場で飛行機を作る労働者たちや、
牧場の長い屋根に積もった溶けかかった雪が、
鮮やかな色でよみがえる。
何があるわけでもないのに、
気付くと何千枚をも何時間もかけてぼんやり見続けていたりする。
会ったこともない人の表情、
今はもう存在しない景色なのに
こんなにも見た様な気がするのはなぜだろう。
花代の新しい写真集を見た時にも
同じ様な気持ちになった。
短いドイツの夏の時間を惜しむように、
河原には日なたの芝生に水着で横になる大人たち。
傍らでは子どもたちがじゃれあっている。
その姿を水面に反射した弱い日の光が照らす。
はかない光と水が満ちた、
ぼんやりとした世界。
明日もその先も同じ景色なんだろうけど、
今しかこの瞬間はないことに、
無邪気にベッドの上ではしゃぐ男の子と女の子は
気付いていない。
記録というにはあまりに淡いけれど、
すでに誰も見ることができない記憶を、
はっきりと留めているように思える。
〈江口宏志=文・記事より抜粋〉