ムウという化学兵器によって脳をおかされた純粋な少年が、悪の権化となって幾多の殺人や悪行をためらうことなくやってのけ、ムウを手にいれるために手段を選ばず突き進むというあらすじ。主人公結城は基本的には悪そのものであり、他の話であれば少しは人間らしさを垣間見させるところを、そういった一瞬も手塚は許さない。(賀来神父への愛情については数少ない例外だが)悪とは一体存在するのか、それは一体どのようにあるのか、それはどうしてあるのか、そんな悪について考える契機を与えてくれる。悪というものそのものが主題のため簡単に主人公に移入できるわけでなく(現に主人公は内面をあまり語らない)心地よく読めるような漫画ではないが、そうであるがゆえにむしろ心の中に強く刻まれ、そして臨場味がある。まるで悪意で生み出された化学兵器など結局のところ悪を次々に生み出すだけといっているようである。そしていくつもの謎がちりばめられている。なぜ主人公結城はバイセクシャルなのか。そして結城がムウを求めていたのは本当に人類全体を死に至らせるためであったのか。すっきりとした読後感というよりも、むしろいろいろなわだかまりを残す、そんな漫画だと思う。