アバド/ルツェルン祝祭管弦楽団のライブ映像によるマーラー・シリーズ。交響曲第1番「巨人」とのカップリング曲は、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番。ソリストは北京出身、カーティスでG.グラフマンに学んだという新星ユジャ・ワン。2009年8月11-15日に収録。
このプロコフィエフのクラリネットで始まる導入部は、ラフマニノフ3番の2小節の序奏+導入と並んで、ピアノ協奏曲の出だしとしては最高にクールで、かっこよくて(ついでに言うとバルトーク3番も)スリリング。さらに、プロコといえば《ピーターと狼》や《ロミオとジュリエット》でもわかるように、この協奏曲でも一つ一つの楽器の扱いが、まるで物語や絵本を読み聞かせるように、語り口やキャラクターにあわせてくるくると変化し、リズミカルに表情や音色をたたみかけてくる。その様子をカメラが適確にとらえ、美麗な映像で伝えてくれる。そして、ユジャ・ワンの演奏している姿の美しいこと。強靭で柔軟な筋肉質の手指の動きはむろんのこと、プロコフィエフの強烈なリズムにあわせて身体がうねるところなど、まさに眩惑の極地。個人的に、あの叩いて弾き捨てるような音は、ピアノの音という意味でどうしても好きになれないのだが、映像での鑑賞ならそれをおぎなって余りあるほど魅力ある奏者だ。
マーラーの1楽章では淡々とした音運びに、かつてのアバドとはまた違った「尽きることない音楽への愛情」が脈々と流れているのを感じる。3楽章のフレール・ジャック旋律モチーフ後半の、跳ねあがるような上弓とでもいうのか、ダンスの振付めいた独特のフレーズ強調がとても印象的で心惹かれ、さらに「若人」からのメロディが出てきたときは、すっかり「アバドのマーラー」にやられてしまい、不覚にも涙が出そうになった。終楽章でホルン奏者たちが立ちあがるのも……。曲が終わって、隣りあった楽員たちが抱きあい、ついに舞台から誰もいなくなってもまだ拍手が鳴りやまず、一人だけ戻ってきた指揮者への喝采にかぶさってのエンドロール。映像と音楽が持つ力に圧倒される。素晴らしい。