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かれを取り巻くクセの強い連中。さまざまな老若男女は、それぞれ悩みを抱え、怒り、悲しみ、不満の中で毎日を生きている。かれらの不満が生じるのは世間のせいでもあり、自分のせいでもあるのだが、かれらのグチを聴いてくれるのが、心おだやかにつつましく生きているシンガーさんなのだ。口がきけないからうなずきながら話を聴いてやり、微笑みを返してやる。だれもがシンガーさんに救われていく。
ところが病気の友人のベッドの脇で(無言で)友人に語りかけるかれの言葉に、読者はショックを受ける。かれは英語がよくわからず、熱心に語りかける連中の言葉を困惑して聴いていただけなのだ。ここでシンガーさんはムイシキン公爵とぴったり重なる。
唖者と白痴。どちらも特殊な例だと思えるが、そこで本質を見誤ってはならない。同様のことは日々わたしたち自身が経験しているのではないか。あなたが悩みや悲しみをぶつけている相手は、ほんとうにあなたのことを理解しているのか。分かってくれていると思いこみ、自分勝手なことを一方的に相手に押しつけてはいないか。あなたの心は、じつは存在しない対象(自分を理解し包み込んでくれる絶対的な人物)を求めつづける孤独な狩人ではないのか。
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