写真家のハービー・山口氏のこの写真集を超える一冊に私はまだめぐり合っていないようです。
どのページもどの被写体も、たとえば草の一葉にさえ、限りない郷愁と優しさと、切ない憧れを感じさせられ、この写真集を手に取る度に胸をかきむしられるような思いを募らせながら見ています。
これはひとつの異文化体験、現場の空気、風の動き、湿度やコーヒーの香りまで、たまらないほどの人間くささと不思議なほどの清澄さでひたひたと心を揺さぶられます。
ここに切り取られているのは生きた人間の瞬間です、小学校の先生と生徒たち、光の中で駆け回る元気いっぱいの子供たち、校庭に植えられた木のまわりできっと歌いながら駆けていく、彼らはもう子供ではない、現実の時間はとうに過ぎ行きすべては思い出に変わっていく、そのことへの哀惜と仮借ないまでの優しさでカメラマンは写真を残す、自らの感動を形にして。
当代随一のロックスターの夜遊びの写真、オフの写真、奇異で目をひくメイクと衣装、でも表情には生身の疲労と恍惚が隠しようもなく浮かんでいる。一瞬の閃光が彼ら、彼女らの「姿」を残す、目に見えないそのオーラごと、圧倒される寂寥ごと。
風景写真がまた素晴らしい、何気ない一枚にすら圧巻の迫力がある。それらは地味で平凡で凡庸で、何一つ目をひく要素などないはずなのに異様なほどの鮮烈さで「美しい」と思わせます。
私が一番好きなのは「STILL」と題された写真。目を閉じて立ち木にもたれた美しい男性のバストショット。一世を風靡して今なお音楽活動を続ける芸術家David Sylvianの、魂が透けて見えるような静かで恐ろしい写真です。
ハービー・山口、この芸術家の瞳には世界がこのように映っているのか。
そんな感慨と共に繰り返し見つめ続けずにはいられません。
夢のあと。
それはどんな夢なのでしょう。