本作が発表された1973年。同時期に一世を風靡した「Deep Purple Live in Japan」や「Yessongs」に比べ、このライヴの印象はあまりにも地味だった。ユーライア・ヒープの売りは、ギターとオルガンが一体化した分厚いリフと超絶重厚なコーラスだったが、本作では音もコーラスもいまいち貧弱。おまけにアンコールでは軽いノリの「Rock'n Roll Medley」なんかやっていて、別にロックンロールが悪いとはいわないが、パープルのようなインスト・バトルを期待していた当時中坊の筆者にはがっかりだった。
しかし。今の筆者にはこのアルバムの素晴らしさがわかる。へたにスタジオ盤の完成度が高いものだから誤解していたが、ハードロック・バンドといいながらヒープにはテクニシャンはいない。ギターソロすらほとんどない。つまりそもそもパープルやイエスと比べるようなバンドではなかったのである。だが彼らには大英帝国の陰りと憂いに満ちた素晴らしい楽曲がある。本作の魅力は正にそこにあって、この「July Morning」を聴いて胸を打たれないブリティッシュ・ファンがいるだろうか。
本作のレコーディングは73年1月の英国ツアーで行われたが、機材のトラブルなどでことごとく失敗し、このバーミンガム・タウンホールが最後のチャンスだった。しかしここも会場が小さくどうせまともに録音はできないだろうと諦め半分でやったのがこの演奏だという。いつもどおりにやったと彼らはいうのだが、実際は当時のどのライヴと聴き比べても明らかに丁寧で気合が入っている。結果としてこのライヴは、ベストメンバーによる、ベストの選曲、ベストの演奏であり、また単一のコンサートの(恐らく)全曲収録という点で記録としての価値も高い。ヒープの代表作であるのみならず、ブリティッシュ・ロックが最も輝いていた時代の胸躍るドキュメントだ。