フランスのピアニスト、ピエール=ローラン・エマール(Pierre-Laurent Aimard 1957-)による「ザ・リスト・プロジェクト」と題されたアルバム。ウィーン・コンツェルトハウスで2011年5月に催されたコンサートを収録したもの。コンセプト観の強いコンサートであり、その演奏順に収録がなされていて、内容は以下の通りとなる。
1) リスト 悲しみのゴンドラ
2) ワーグナー ピアノソナタ「マティルデ・ヴェーゼンドンク夫人のアルバムのための」
3) リスト 暗い雲
4) ベルク ピアノソナタ
5) リスト 凶星!
6) スクリャービン ピアノソナタ第9番「黒ミサ」
7) リスト ピアノソナタ
8) リスト エステ荘の糸杉に−哀歌I
9) バルトーク 挽歌
10) リスト 小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ
11) マルコ・ストロッパ タンガタ・マヌ
12) リスト エステ荘の噴水
13) ラヴェル 水の戯れ
14) メシアン 「鳥のカタログ」からカオグロサバクヒタキ
15) リスト オーベルマンの谷
エマールの狙いは、リストの作品と、その影響のある他の作品をペアにして奏で、その関係を明らかにすること・・・にあると思うのだが、実は、私はこのアルバムを数回通して聴いてみたのだけれど、中にはその関連を思いつかないような「難解な」組み合わせもあった。また、それと別に、このたびのコンセプトのために選らばれた作品には、暗く重い雰囲気の楽曲が多い。2枚のCDの冒頭に当たる「悲しみのゴンドラ」「エステ荘の糸杉に−哀歌I」はいずれもリストの暗黒面が表出しているし、その雰囲気は全体に支配的に広がっているようだ。それで、厚い雲が垂れ込めるような中を、不気味な気配を感じながら進むような部分が多く、やや気持ちの沈むラインナップかもしれない。エマールの技術は確かだが、例えばリストのピアノソナタでも、感情をダイナミックに放散するようなことはせず、規則的な進行の中で、クリアなタッチの効果をピンポイントで表出する。たしかにエマールのスタイルではある。とはいえ、この多様な要素の集積したソナタに対し、ここまで均一なスタンスでアプローチすることに、違和感がある人も多いのではないだろうか。
今回はじめて聴いてとても面白かったのが、ワーグナーのピアノソナタである。古典的でありながら流麗なソノリティは、メンデルスゾーンを彷彿とさせないだろうか?ベルクのピアノソナタもエマールならではの鋭利なクールさが煌めいている。イタリアの作曲家、マルコ・ストロッパ(Marco Stroppa 1959-)の小品も美しく、発見の価値を感じさせてくれる。
確かにムードは暗いけれど、エマールという芸術家の「らしさ」を端的に示すアルバムと言えるかもしれない。