時代は20世紀初頭。メキシコの農場主の末娘ティータはペドロと相思相愛の仲。しかし一家のしきたりでは末娘は独身のまま母親の面倒をみることになっていた。厳格な母の言いつけどおり独身を守り、一家の料理番として生きるティータ。ペドロはティータのそばにいたいがために、その姉ロサウラと結婚して入り婿となる。ティータが作る料理はそれを食べる人々に不思議な作用を及ぼしていく…。
日本では「赤い薔薇ソースの伝説」というタイトルで東京国際映画祭の主演女優賞を獲得した1992年製作のメキシコ映画。官能的で幻想的な物語が紡がれます。
数十年に渡る物語を短時間で描くためにお話が端折りぎみにどんどん進むうらみがあり、その点はとてもあわただしく感じると思います。
ですが、不思議と人の心をひきつける力にあふれた映画です。
映画の中で次々と出されるティータの手料理がなんといっても魅力的。実際に味わうことはかないませんが、人々の舌を虜にし、心をとろけさせるその魅惑の味を想像しながら見続けました。
そしてメスチーソの血をひく主演女優のルミ・カバソスの魅力にも注目です。若い頃は因習にしばられながら健気に耐えて生きるティータを、そして年を経るにつれ自分の気持ちに忠実に生きていこうとする活力溢れる大人のティータを、無理なく演じ切っています。
人は齢を重ねるにつれて、清濁あわせ飲む度量を次第に身につけていくものです。人が成長するということの何と力強いことか。彼女はそのことを見事に表現してみせています。
原題の「como agua para chocolate」の文字通りの意味は、チョコレートを溶かすほど熱いお湯のようにということで、転じて「沸点寸前」つまり「かんかんに怒っている」という慣用句です。ティータが母や姉や煮え切れないペドロに対して非常に腹を立てていることを指しているのです。