もうこの傑作がリリースされて10年になる。発表当時貪るように本作を聴きまくっていた時期が懐かしい。
HipHop好きにはカリスマ的存在であるシカゴ出身のMC、2000発表の通算4作目。元々非常に向上心
のあるコンシャスな人で作品毎に新しい作風を打ち出しているが、10年経った現在も作品としての完成
度において本作を凌ぐものを未だ創れていないと思う(個人的に好きな作品は他にもある)。
それ程本作品はジャケットの世界観を含めて完成されており、コモン自身が今までのキャリア上で最も相
性の良かった音楽パートナーが、今は亡きJ・ディラを含むクリエータ集団「ソウルクエリアンズ」なのは間
違いない。
まず、制作陣のソウルクエリアンズの創造する音がとても個性的であり、本作品の全体のトーンを決定し
ている。具体的にはトランペット・ボンゴ等の諸楽器を駆使したアフリカン要素の強い「どす黒い」音に、太
いボトムビートやフェンダー・ローズ・弦楽器等を絡め、とても硬質だが温もりのある世界を創りだす。
それは、彼ら黒人の祖先から受け継がれた素晴らしい音楽の歴史でもあり、ライムの内容を含め非常に
社会意識の強い本作の精神性を強力に後押しすることに成功している。
さらに特筆すべき点が、コモンの独特のライミングとその声の魅力である。
彼の声質は、大勢のHipHopのMCが誇示しがちな筋肉質なイメージではなく知的で柔らかいものであり、
HipHopのお約束の一つである韻踏みを行っているにも関わらず、それを感じさせない程スムーズに流れ
るようなライミングである。まるでアルファ波が出ているかの様に聴いていて心地良いその声は、何度も
作品をリピートさせる程の力を持つ。
作品はいくつもの白眉に満ちている。冒頭の静かに奏でられるトランペットの導入からコモンの心地良いフ
ロウが流れ出す「Time Travelin'」から強い吸引力を持つ。「Light」ではソウルフルな歌手ビラルを迎え、
ロマンティックな空気を注入する。モス・デフをfeatした「Questions」では、女性のことから社会のことまで
ユーモア溢れる質問をMC2人で投げかける。「6th Sense」では、コモン自身HipHop革命を高らかに宣
言する。陰鬱なループが癖になる「Nag Champa」。ディアンジェロを迎え、タイトル通り天国のような夢見
がちの「Geto Heaven, Pt. 2」から一人の勇敢な女性の人生に捧げた「Song for Assata」までの終盤が
本作一番の白眉であり感動的なのは間違いない。最後はコモンの父によるリーディングで幕を閉じる。
本作品、歌詞カードは付属しておらず、自力で言葉を聴き取るしかない。自分は半分も意味が分からない
が、作品内で随所に感じるユーモア・ロマンス・彼らの黒人としての誇り・精神性の高さ等が音を通して十
分伝わる。
あまりHipHopを聴かない自分の涙腺を緩ませた傑作。
亡きクリエータJ・ディラの本作での傑出した業績に深く敬礼。