本作品は、空前の大ベストセラーとなった『朗読者』(英訳『The Reader』)に続く、著者ベルンハルト・シュリンク初の短篇小説集。この作品の中で彼は、社会や国家の歴史やありかたに否応なく影響を受ける男女の愛をはじめ、子どもに対する父親の愛情、1枚の絵に描かれた少女への特別な感情、さらには妻のほかに2人の女性と関係を持ち、三重生活を送る男の愛など、さまざまな愛のかたちを描いている。
音楽、絵画、建築などの芸術的な要素を盛り込み、登場人物の心情の変化を細やかに描いてみせる筆力は、前作に勝るとも劣らない。いくつかの作品では、秘密を追求するというスリルあるストーリー展開で、推理小説的な要素も楽しめるなど、その魅力は多様である。また、著者はベルリン・フンボルト大学法学部教授という顔も併せ持つ。彼の研究テーマである「ユートピア」や「故郷」に関する考察が、作品の中でさまざまなかたちに具現化されている。特に「割礼」の主人公が割礼を決断、実行するくだりは、強いインパクトを持った象徴的な部分だとも言えるであろう。(石井和人) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
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11 人中、11人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
愛の本質とは?,
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レビュー対象商品: 逃げてゆく愛 (新潮クレスト・ブックス) (単行本)
これまで「愛」と信じていたものが、もろくも崩れ去り、自分の手の中から砂のようにこぼれ落ちていくのを、ただ見ているしかない男女。青年、成年、中年、老年にわたる様々な主人公達の、恋人への妻への子供への、そして自分への「愛」と信じていたものは、いったい何だったのか。「愛」をつきつめればつきつめるほど、また、自分の「愛」に正直になればなるほど“逃げてゆく”「愛」の不条理を、真摯に捉えた「残酷な愛」の書でもある。
1 人中、1人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
悲惨な歴史の果てに,
By nika (東京都) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 逃げてゆく愛 (新潮文庫) (文庫)
一筋縄にはいかない人生があって、愛があって、個人や家族や民族や国のヒストリーがあって、仲間や友人や恋人がいて、でも結局、人間は孤独。そんな事実を改めて感じさせられる作品だが、だからと言って未来が暗い訳ではないことも、伝わってくる。シュリンクの作品に一貫している、「歴史」に関する考察。 敗戦国、侵略国としての歴史を共通に持つドイツと日本。 戦争を体験していない世代が、自国の歴史にどこまで責任があるのだろう。個人的には責任はないと思うが、「割礼」の恋人たちと同様に、歴史に関して何らかの見識を持っていて、その見識が互いに一致しない時、ほんとうの意味で理解し合った関係はありえないと、感じた。もちろん、それはシュリンクの意図する結論ではないが。 とにかく、いい作品。 戦争を知っている世代の方の感想を伺ってみたい。
4 人中、3人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
愛とは,
By タック (神奈川県) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 逃げてゆく愛 (新潮文庫) (文庫)
作者の「愛」の感覚なのだろうか、 それぞれの短編の中に出てくる愛はとても個人的だ。 求めてもすり抜けてゆき、手元には愛の残滓だけが残る。 そんな短編集。 しかし実は愛とはそういう物ではないだろうか? 愛し合うもの同士の間にあるようで居て、 その実、ある瞬間に一方の中にだけしか存在しない。 おとぎ話ではない愛、少し考えるにはいいだろう。 もう一つの特徴は、東西ドイツに関わる問題を背景にしているところ。 この雰囲気は独特で、味わうに値する。 僕が中学生の頃はまだ東ドイツがあって、ベルリンも東西にわかれていた。 そのころ東ベルリンに引っ越して行った子と文通していた事を思い出した。 外国人である彼女は西ベルリンに行く事ができて、 東の友達にお菓子をねだられるのだと言っていた。 僕らの知らない東西間の話は子供ながら面白く記憶にある。 そのころの東西間にあったもつれは、きっと今もあるのだろう。
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