80年代からリアルタイムでPrefab Sproutを聴いてきたファンの多くにとって、Paddyが書いてきたメロディは、青春の思い出そのものに同化してしまっているのではないかと思う。90年代後半からT. Dolbyがプロデュースを外れ、メンバーも徐々に減っていったが、最近ではメロディ自体は以前と同じなのに、「昔みたいにT. Dolbyの玉手箱のようなシンセ・アレンジで聴きたいな」「ここでWendyのコーラスが欲しいな」という思いがつい浮かんでしまうようなアルバムがここ何枚か続いてきたのは否めない。(誤解を与えたくないので補足すると、僕にとってはどのアルバムも五つ星なんだけど、それくらい「Jordan」までが奇跡的に完璧だったということです。)でも、そうやって感傷的に80年代黄金期の眩しさを振り返る行為自体が、「帰らない青春の象徴」として誰にとってもPrefabの音楽が作用してしまうという、不思議な効果をもたらしてきたのだと思う。
2007年に「Steve McQueen」(1985) 全曲をUS特別盤用にアコースティック・バージョンで再録音し直したPaddyは、今回の本盤では1993年に制作が中断していた音源を一人で再録音し直した。彼がどんな思いでこのアルバムを作ったのかは自身のライナーに少し書かれているが、彼にとっても全盛期に他のメンバーやT. Dolbyと作っていた音は、永遠に「帰らない青春」の思い出だったようだ。(そういえば、彼はメンバーが抜けても決して別メンバーを補充しようとしなかった。)
残されたオリジナル・テープからデータを起こして作り直したようなので、かつて他のメンバーが残した音を消しながら自分一人で演奏し、コーラスを歌う作業を行ったと思われるが、その時のPaddyの気持ちを考えると僕はいつも泣きたくなる。このアルバムはT. Dolbyとかつてのメンバー、そしてPrefab Sproutの黄金の日々に「unsentimental」に捧げられている。でも、unsentimentalな人間がこんなアルバム作れるはずないんだよ。