英ベテラン・シンガーソングライターPJ Harveyの通算8作目。本作は昨年の春にイングランド南部ドーセットのある教会にてひと
月以上をかけじっくり録り溜められた12曲が収録されている。
まず本作に綴られた詞が印象的。全体に彼女の祖国イングランドへの敬愛(「England」)や、同胞の民族への問題意識の提起(「
Let England Shake」)等コンシャスかつ硬質の言葉が並ぶ。しかしそれらは決して特定の民族のみに向けられたものではなく、聴
き手各人の様々な意識を起こさせる普遍のメッセージにもなっている。普段は歌詞カードを読まれない方も、本盤に関しては彼女
からのメッセージに一度目を通すと、味わいが数段増すと思われるのでお薦めする。特に難解な表現は使用されていないので、あ
る程度英語が読める方なら和訳無しでもなんとか内容を掴めると思う。
サウンドの方は、割と直球路線の曲調が多い中にも随所に捻りを入れ、たとえ歌詞の内容を理解できなくとも十分音楽単体として
楽しめる作品となっている。疾走するビートに乗せ聴き馴染みのあるファンファーレを鳴らす遊び心が印象的な「The Glorious L
and」、ケルト音楽風情に仕立てた「England」等変化球をつけた曲群も十分癖になるが、その中に時折挟みこまれる「Bitter Bran
ches」等の直球ロック・チューン群が実に格好良く、彼女自身の歌唱法も曲毎に絶妙な変化をつける。
全編に強いリズムとビート感が感じられる処や適度な尺(全40分)が作品を聴き易いものにしており、最近のオルタナ作品にありが
ちな過剰プロデュースに陥っていない為、彼女の歌・バンドの高水準の演奏の良さが聴き手に直球で伝わる。良い素材には過剰
な装飾など無用、といったところだろうか。
一方で音の表層的な部分を追う限りでは以前よりも丸みを帯び成熟した表現が増え、初期からの彼女のファンには評価が割れる
作品かもしれない。しかし一聴して感じられる穏やかさの中に彼女が音楽に込めたパッションはデビュー時から不変であり、その表
現方法がキャリアと共に推移するのは至極自然なことに思える。あとは聴き手がどう受け止めるかの問題であり、心配な方は試聴
してから購入された方が良いだろう。
シンプルに良い歌・言葉・演奏が三拍子揃った好作品、彼女の初心者にもお薦めしてみたい。