原題のLes Faux Fuyantsも邦訳の「逃げ道」も、どちらも期待をくすぐられるとても素敵なタイトル。これはサガン晩年の作品で、こんなに最近出版されたサガンの作品があったとは、つい先ごろまで知らなかった。訳者ももはや朝吹登水子さんではない。
時は1940年、パリ近郊の農村。登場人物はそれぞれ個性も欲望もバラバラな上流階級の男女4人。ドイツ軍の爆撃にあって高級車もその運転手も失った彼らが、若い農夫と出会うことから物語は始まる。化学反応というものは、特殊な状況下で、出会うべくもないはずの要素が出会ってしまうことで引き起こされるものだからだ。
サガンの筆は相変わらず小気味良い皮肉が利いていて、どの登場人物にも容赦はしない。そこには農村=善、という図式も存在しないが、わがままで自己中心的な彼らが泣いたりわめいたり煩悩にとらわれたり策略をめぐらしたりしながらも、ひととき共有する農村の美しい一瞬の永遠が心から心地よい愛すべき作品。
若いジゴロのブリュノーは最後まで救いのない人格だし、若く美しいが優柔不断で自我の薄いリュースは、たくましい農夫のモーリスとたちまちあり得ないはずの恋に落ちながらも、それによって人生の蜜を掬い取った様子でもない。一方、50代の外交官ロイや、60代の裕福で高飛車なディアンヌは、農村にあってさらに個性に輝きを増して行く。そこがいかにもおとなの文化が闊歩するフランスらしい。