「ライヴ・イン・ヴィエンナ」。場所はウイーン学友協会、毎年ニューイヤーコンサートをやっている会場のライヴ録音。ラン・ランがどれだけ箔がついたかを示す盤。保守的なはずのウイーン圏の聴衆(観光客も含まれるだろうけど)が熱い拍手と声援まで贈った。大成功のライヴ。録音がたいへん良く、ライヴ盤だからといって毛嫌いする要素はないだろう。
演目は、ベートーヴェンのソナタと後半のプロコフィエフのソナタがメイン。前半にベートーヴェンのソナタをもってきたのは、実力を聴衆に確認させるためかもしれない。全くといっていいほどミスタッチがなく、指まわりが異常に良い。ピアノの音色は、強打でつぶれず、透明感優先のセッティングがラン・ランの好みのようだ。速い曲の技術はおそらく若手トップ。けれども、ピアノ・ピアニシモのタッチが自然に強打に溶け込む流れは絶品。
ドイツの老舗、ベートーヴェンのピアノ・ソナタを2本、本拠地のウィーンで弾く。これはそうとう勇気のいることだ。しかし、これほど若さをストレートにぶつけ、なおかつ艶や色気を表現した演奏はめずらしい。原曲は、一見粗暴な男の世界だが哀愁が漂う。これまでの解釈は地味な保守的演奏が多いなか、ほかの表現系が乏しい中でのラン・ランの存在感は非常に大きい。とても勇気ある演奏であり、とても「熱情」を感じる。とにかく明るく軽やかで繊細。
後半、アルベニスというめずらしい選曲。多くの観客を未知な体験に導く。フランス風の曲からの、次へ続く、プロコフィエフには大きなギャップとエネルギーの鮮烈さを際立たせ、リサイタルの完成となった。
アンコールで200年記念のショパン。ベートーヴェン〜プロコフィエフと続いた緊張に安堵をもたらす静かなエチュード。ポロネーズも非常に強気の演奏でしかも繊細きわまる。観客もほぼ熱狂。表情の異なる作家を、その場で切り替えて、いとも簡単に表現してしまう、この才能はそうそう出会えるものではない。
日本版の方は、ボーナストラック1曲と日本語解説書がついていて、倍以上の値段が付けられている。それなら、DVDつきの海外版の方が充実したコンテンツかもしれない。私は「音だけ」がほしいので、こちらを選択しました。余ったはずのお金でもう一枚、別のラン・ランを買いたいほど。
のだめ映画版サントラで、ラン・ランの名前に引っかかった人は多いだろう。北京オリンピックの開会式パフォーマンスで弾いていた人だ。のだめCDのピアノ編をラン・ランが弾き、失礼だけどそれまでと別物になったと言っていい。その中でも個人的にはベートーベンの演奏がとても豊かで非常に惹かれた。このCDは、そのベートーベンを堪能できる。