ACOの「
irony」以来実に9年振りとなるフル・アルバムは、従来のエレク.トロ路線から大きく転換し、バンドサウンド
を多分に意識した創りとなった。直近となるミニ・アルバム「
devil’s hands」の延長上にあると考えてよい。
95年にデビュー。当時氾濫する「歌姫」の一人に括られることの多かった人だが、その頃流行したR&Bでスタートし
ながらも、彼女はその時々でジャンルに縛られず表現の形を大きく変えてきた処が独特だ。
彼女の商業的ピークの99年に発表された名作「
absolute ego」は、10万枚セールスを叩き上げたことが信じ難い程
暗く官能的な創りで、売上の見込める時期に敢えてこういうディープな作品を出す姿勢が面白く興味をもった。
結果として商業的な成功は続かなかったが、その後流行の残骸の如く消えた多くの歌姫達と異なり、彼女はマイペ
ースに表現したいものを積み重ねた。移り気ともとれるが一方で表現への欲求に対して正直な人なのだと思う。
本作に於ける現在の海外オルタナティヴ・シーンに沿った音創りも今彼女が最も興味を持ち、表現したい形なのだ
ろう。全40分という短さも潔い。
息苦しい程の緻密さと重厚な電子音で固められた「
irony」とは異なり、本作では音の耳触りが軽くなり風通しが良くな
った。乾いたバンド演奏とACOの媚びの無い歌との相性も良く新たな魅力に出会える。例えば「LUCK」での肉感的な
ギターリフ・乾いたドラムに絡みつく気怠く甘い彼女の歌はシャルロット・ゲンズブールを思い出した。バンドの躍動感
を活かしながら、ピアノ・ホーン等をセンス良く配置したサウンドは詰め込みすぎず彼女の声が良く映える。
「贅沢言って"人らしく生きていく"(LUCK)」「私が私でいなくてはいけない理由は簡単ではない(砂漠の夢)」といった何
処か厭世感が漂う断片的な言葉達、それら繋ぎ合せラフ・スケッチの様相を呈した歌と音楽は聴き手を選ぶアクの強
さがあるが、私にはとても魅力的に感じられる。閉塞的な表現が並ぶ中、何処か3.11の影と前へと進むひたむきさが
感じられる締めのバラード「Control」の温かみが胸を打つ。
「
absolute ego」等で感じられた濃厚さに比べるとまだ何処か物足りない部分はあるが、新たなスタートが加速を帯び
てきたことが伺える佳作。またこの路線を突き詰めかつての名作に匹敵するものを産み出すことを期待したい。