NHK「ラジオ深夜便」で、照明デザイナーである石井幹子のインタビューを聞き興味を覚え、手にとった。
工業デザイナーとして出発し、照明デザイナーへと転身。フィンランドを皮切りにドイツで修業し、日本に帰国。その後もアメリカをはじめ世界中を駆け巡っている。娘の石井リーサ明理も照明デザイナーとして活躍しており、母娘がコラボレーションした作品もある。
本書は、石井幹子がこれまでにデザインした照明作品の数々がカラー写真で紹介されるとともに自身の文章で構成されている。2009年「東京新聞」夕刊の「この道」に連載されたものを元に、その後のプロジェクトを加えたもの。
おもな作品は、東京タワーやレインボーブリッジ、東京駅赤レンガ駅舎、海外では日独交流150年記念イベント(2011年9月、ベルリンのブランデンブルク門)など。
私がいちばん印象に残ったのは、冬の岐阜県・白川郷のライトアップだ。雪に包まれた合掌造りの民家が、斜面の木立のなかに置かれた5つの灯光器により照らし出されている。月あかりのような白い光が静謐な雰囲気を醸し出していてよい。むやみに強い光を用いたり器具や色の数を増やすのではなく、周りの景観や用途に合わせて、照明をコントロールすることが大切なのだろう。
日本大震災以降、電気を消費する照明に対する風当たりが強くなったことについても言及している。それまで電気を使って作品をつくってきた著者は、震災・原発事故には大きなテーマをつきつけられた。住宅で使用する電気のうち照明は約15%といわれ、使うエネルギーは冷暖房や冷蔵庫など他の家電より少ないが、それらより目立つため、やり玉に上がりやすいという。
著者は、省エネは大切だとしながらも、「やみくもにあかりを消すのではなく、少ないエネルギーでもっと美しく暮らすこと」を提唱している。たとえば、日本の家屋照明は明るすぎると指摘。夜間は部屋全体を照らす天井照明を消して間接照明に切り替えたり、ときには明かりを消してキャンドルを用いれば、陰影に富んだやさしい光を楽しめると説く。
また、著者は自分が使う電気エネルギーは自分で産み出し(創エネ)、自分で消費するという「自産自消」を推奨する。電気は発電した場所から遠くの消費地へ送る間に50%近くをロスするが、使うところで発電すればロスはなくなる。具体的には、太陽光発電と長寿命で消費電力が小さいLEDを組み合わせて使用するというものだ。
最後に掲げられた写真は、東日本大震災から1月後の2011年4月11日夜、東京タワーの大展望台に映し出された光の文字「GANBARO NIPPON」。このメッセージは、太陽光発電の電気で灯され、事故を起こした原子力発電所のある福島への思いが込められた。
光と一緒に歩んできた著者の足跡と業績、光に関する考え方が凝縮された一冊である。