彼女がこのジャケットの表情で伝えたかったのは、「強い喪失感」だったのだと思う。
美しく咲いた花が、その花の良さを解する人に摘み取られた。だけど摘み取った後にその人はある事情で花瓶に飾ることができなくなってしまった。摘み取られた花はテーブルの上でだんだん萎れていくのを待つだけになってしまったのでした。
この『LOVE』は、当時の斉藤由貴にとって大きな失意の最中で作られたアルバムです。その失意をエネルギーに変えて、全曲作詞に取り組みました。その「失意」に向き合うあらゆる角度からの思いが、このアルバムの全ての曲に散りばめられています。「AXIA」から「MOON」までのジャケットにあるような、ある種の虚飾に満ちたアイドル像ではなく、一人の表現者として、「今の私」を記録したいという気持ちが、このアルバムの一連の曲やジャケット写真となったのでしょう。
しかし彼女にとってさらなる大きな悲しみが、このアルバムをリリースしたわずか数ヵ月後に突然訪れます。その結果、由貴ちゃんはこの後数年、音楽活動と距離をおきます。そして、当時のラストアルバムとなる「moi」を発表する頃には、いろんな意味で過去を払拭して生まれ変わってやってきたのでした。ですからこの『LOVE』は多くのファンにとって実質のラストアルバムだと言えます。
作詞家としての斉藤由貴は、たくさんの曲で「今の自分」を詞に反映しています。ですからこのアルバムをじっくり聴こうと思ったら、彼女の「自分史」について少し予備知識を持っておかないと正しく理解できません。その「自分史」をちょっと理解してこのアルバムを改めて聴いてみると、このアルバムで彼女が伝えたかったこと、言いたかったこと、そのときの思いが痛いほど突き刺さってきます。アイドル斉藤由貴が次のステップに脱皮する時期のアルバムゆえ、当時セールスはさほど振るわなかったかもしれませんが、このアルバムは今聞いてもまったく古さを感じない、極めて完成度の高いアルバムです。
それにしても「いつか」は名曲ですね。この曲がこの世に生まれたことは奇跡のようです。