この恐ろしげなジャケトとタイトルを見たらなかなか手が出せないでしょう。昔、これをジャズ喫茶でリクエストしたらジーンズをはいたお客さんからコップの水掛けられたでしょう(ウソ)。「今聴かなければいけないものではない」、「もっと新しいものを聴かないといけない」、「昼間から聴くものではない」(これは実際言われたことがある)というような無言の圧力もあった。もっとも当時は自分もジーンズはいていましたが。今でもどうでしょう、ジャズ専門家や先輩達からは、ウェブスターやホーキンスの全盛期はスイング時代でモダン期のプレーは本物ではない、と必ずどこかに書いています。自分みたいな中途半端な世代はなかなか触れる機会がない。いろいろな要素がこのアルバムを我々から遠ざけてきました。しかし、このアルバムの面白さを知っていて密かに楽しんでいたファンは相当いたと思いますが、皆、多くを語らない人たちだったに違いないと思います。
ジャズをスタイルで選ぶのも一つの方法ですが、これはスタイルを忘れてサックスという楽器を純粋に堪能できるアルバムです。マウスピースの振動が真鍮の管で共振、増幅してサックスの音になる。マウスピースあたりから空気の漏れる音が聴こえる。どうやっているか分からないがビブラートが加わって漏れた空気が揺れている。息継ぎの音が聞こえ,ベンの左右後ろに広がった大きな鼻の穴から空気が吸い込まれていく。この全てが音楽芸術になっている。ただ、それだけですと言ったら、また、サックスの巨人になんて失礼なこと言うのかと叱られるでしょう。しかし、スタイルを超越して聴かせることが出来るということが、本当の名人ではないでしょうか。それと、このアルバムがいいのは、ピアノが出すぎないことです。饒舌なピーターソンが借りてきたネコのように大人しいのです。きっとキングのワンフレーズ、ワンフレーズに聴き入っていたのではないかとさえ思わせます。
これを聴いたらジャズ鑑賞がつまらなくなるかもしれないし、新しい好奇心の出発点になるかもしれません。どちらになるか分かりませんが、難しいけどあらゆる先入観を排除して、勇気を持って、一度は手にしてみる価値があるものだと思います。