フェイス・エヴァンスのアルバムはどれも水準が高いが,その中でも際立っているのが本作ではないだろうか。夫・ノトーリアスBIGの急死という悲劇を乗り越えてのリリースという背景もあるし,ショーン・パフィ・コムズの大ネタ使いがツボにハマッているからということもあるが,何よりも情感のこもったフェイスのヴォーカルを,優れたメロディーラインと共に堪能できるアルバムだからだ。
シックをサンプリングしたメロウで軽快な「Love Like This」,グルーヴィーなダンス・ナンバー「All Night Long」,レイトナイト向けのメロウでスウィング感のある「Sunny Days」,美しく流れるようなメロディーによる夢見心地で浮遊感のある「Life Will Pass You By」などファンキーな曲が増えているのも魅力だが,そうした曲においても,ただ単にノリが良いだけではなく,何処となく愁いを帯びたフェイスのヴォーカルが程よくウェットで胸に染みる。
一方,バラードの出来も素晴らしい。美しく落ち着いた雰囲気の中にも深い悲しみが漂う「Tears Away」,黄昏時を想起させるアンニュイな「Anything You Need」,深い悲しみを堪えるかのように情感のこもったヴォーカルを披露するアコースティック調の「Keep The Faith」に「Lately I」と,実に佳曲ぞろいで駄曲は1曲もない。
たとえ,パフィの売れ線狙いと皮肉られようとも,これほどまでに楽曲水準の高いアルバムはそうそうあるものではなく,フェイスのヴォーカルもそれ以上に素晴らしい出来で,これを傑作と呼ばずして何を傑作と呼ぶのか。’90年代の女性R&Bシンガーのアルバムとしては最高級に位置する傑作である。