ハーバード大学教授のマイケル・サンデル先生が、政治哲学の講義を実に分かりやすくまとめている文献です。2010年5月21日に日本語版の翻訳である「これから「正義」の話をしよう」も早川書房から出版されました。身近な事例を豊富にとりあげ、正義とは何かを論じています。サンデル先生は、幸福、自由、美徳の3つの観点から正義の本質に迫っていきます。
サンデル先生は、最初に最大多数の最大幸福を標榜する功利主義者(ベンサムやミル)の見解を検討します。功利主義に対して、サンデル先生は、個人の自由と尊厳より功利を優先する点や単一の評価基準で幸福を測ろうとする点を批判します。次に、同意に基づく個人の自由な選択を重視するリバタリアン(自由主義者のノージック)をとりあげます。そして、カントの道徳形而上学原論を分析し、社会契約論にふれて、ロールズの見解への発展していきます。ロールズは、自由と平等を尊重しながらも、最下層の人々に便益となることを条件に、公正なスタートラインに立って実力主義で格差が生じることを認めますが、サンデル先生は美徳の観点から批判的に検討していきます。さらに、共同体の美徳や善を重視するアリストテレスの見解をとりあげ、サンデル先生は、個人の尊厳を認めつつ、政治が道徳的善から中立的でありえないとして、共同体の中に存在する人間が善良な生活を目指す正義論を示していきます。具体的な事例は、悩みぬく題材として上手く選択されていて、犠牲者を選ぶ話、高額所得者の財の配分的正義、臓器売買、代理出産、傭兵、殺人犯から友を守るたえの嘘、妊娠中絶、大学の目的と選考基準、戦争責任、同性結婚など、考えさせられる教材でもあります。