10代からその実力が高く評価された小林桂が、30代に入りより大人のジャズを、という気持ちが感じられるアルバムです。彼自身が立ちあげたトゥインクル・ノート・レーベルの第1弾で『ラヴ・レターズ』以来、5年ぶりの新作でした。
「スターダスト」のように誰もが知っている名曲をケレン味なく表現することは勇気がいりますが、男声とも女声とも区別がつかない魅力的でシルキー・ヴォイスと称えたい滑らかな質感の声で歌われるとじっと聴き惚れてしまいます。
「ラヴ・ダンス」のバックの4トロンボーンを起用するという珍しい試みが新鮮でした。包み込む様なサウンドで柔らかさと温かみが増し、彼の声を浮き上がらせる効果がありました。
彼の好きなカーペンターズのお馴染みの名曲「シング」「マスカレード」では4ビートにのせて、オリジナルの良さを残しながら聴き飽きることのない名歌唱を披露しており、間奏のアレンジがオシャレでした。
「デイ・バイ・デイ」といったスタンダード・ナンバーも王道ともいえる歌い回しを披露しています。英語の発音の良さもあり、日本人の歌唱とは思えない聴感でした。軽味の極致です。
「聖者の行進」は、NHK総合テレビ金曜ドラマ「行列48時間」のテーマ・ソングで、ニューオーリンズの香りを残しながら21世紀の感覚で歌っていました。
父である小林洋の作曲、小林桂作詞の「アイル・カム・バック・トゥ・ユー」というオリジナル曲のしっとり感がたまらなく素敵で、スタンダード・ナンバーのような親しみやすさと温かさが伝わってきます。これは収穫でした。