2人とも“コンピューターおたく”だが、価値観は違う。ゲイツは影響力と富を、トーバルズは評価と楽しみを求めた。もっと違うのは、2人のソフトウエアに関する考え方だ。前者は独占を狙い、後者は公開を実践。今、明らかに普及の勢いはオープンソースを売り物とするリナックスの側にある。
世界のサーバーの4分の1を押さえたばかりか、今後家電に入り込むことが確実な各種コンピューターの基本ソフト(OS)にリナックスが大量に採用されそうだからだ。オープンかそれとも潜行か。コンピューターのOSの世界だけで繰り広げられている衝突、論争ではない。政治の世界でも、企業経営でも同じような対立が生じ、オープン派の勝利が目立ちつつある。
オープンの方が知恵が集まり、疑念が消え、間違った行動が正される。確かに勢いも、そして正統性もあるように見える。しかしあらゆるものをオープンにした世界で、どうやって、そしてどの段階で各参加者に富を生み出すかの方程式は見えない。それは、トーバルズの仕事ではないだろう。今後の課題だ。
この本の著者は肩の力を抜いて書いているが、コンピューターの知識のない人間がすらすら読める本ではない。しかし、分からないところで立ち止まる必要はない。なぜなら、彼の言っていることは込み入ってはいない。「テクノロジーの未来について語るとき、本当に大事なのは、人々が何を望んでいるか、だ」(327ページ)と。確かにそれを忘れた情報技術(IT)社会論は行き詰まっている。
窓を開けることもまれだった混乱した自分の寝室でリナックスの核心部分(カーネル)を作り上げたトーバルズも、今は結婚して3人の子供と豪邸に住む。リナックスを凌駕するOSが出てくるのも間近いだろうが、彼が生んだオープンソースという考え方は、社会のあらゆるところで残る気がする。
(住信基礎研究所主席研究員 伊藤 洋一)
(日経ビジネス 2001/07/30 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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戦争も大きな貧困もない私たちの世界には余裕があり、娯楽が溢れ、生活は日々より便利になっていく。こういう世界の中で、自分のビジネスや生活を囲い込み、外部の者が入り込めないようにする行動には意味がない。企業や個人のこうした行動は、はっきり言って多くの人がばかばかしいと思っている。
だがそう思いながらも、因習や集団としての考えにとらわれ、全てをオープンにするという、大胆に思える行動にはなかなか踏み切れない。しかしリーナスはいかにも楽々とその道を進んだ。そこが同OSの魅力であり、またその道程を書き表したこの本の魅力である。全編に専門用語や難解なプログラミングの話が散りばめられているにも関わらず、山を越え谷を越え、道なき道を踏みこえ、旅を続ける男の冒険談を読んでいるかのような活力と興奮に満ちている。しかし、そこに必要以上の気負いはなく、彼は「だって楽しいから」と淡々とその旅を続けていくだけなのだ。パソコンにあまり馴染みのない人でも、楽しめる1冊であると思う。
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