恥ずかしながら、本作がリイシューだと知らず完全新作だと思い購入した。でも中に詰まった音楽の素晴らしさに触れてしまえば新作
だの旧作だのいう些細な(?)問題は何処かに吹っ飛んでしまい、結果的には思わぬ収穫を得満足している。
原盤の発表は1999年。ジャズ・ギター界の重鎮ジム・ホールと、ジャズ以外の領域への進出も積極的なパット・メセニー。録音時ジム
が68歳、パットが44歳と実に24歳離れた二人のギタリストによる共演盤はスタジオ録音とライヴ音源を混合した構成。混合といっても
2種類の音源が見事に一つの流れの中に収まり、モノトーンを基調にしたような渋くゆったりした音像が実に寛いだ一時を提供する。
驚くのはどちらがどちらの演奏か分からないほどに、二人のギターが見事に溶け合っていること。ライヴ音源では右chがパット、左ch
がジムと記されているが逆と言われても違和感がない。パットに関してもっと奔放に弾きまくる印象があるが、本作ではパットがジムの
奏法に近づいた様に控えめな演奏。しかしそこからはパットのジムの奏法に対する深い敬意と研究の跡が伺える。
演奏される楽曲は静かなものが多く、お互い相手の間を縫うように穏やかに音を爪弾く。境界の曖昧になった2台のギター演奏から立
ち上る響きは時にぞくぞくするほど美しく、演奏者の鋭い和声感覚と空白の多い音空間を活用した音響の豊かさを堪能させる。
表層的には淡々とした風情の演奏も注意深く耳を澄ませば、互いの旋律が複雑に絡みあう様、常にこちらの予想を微妙に外れた展開
を見せるコード進行の面白さが見えて来る。そういう意味では聴き手が積極的に音楽に入り込む程応えてくれる作品だ。
最も好きなのが、二人を引き合わせたというハンガリーのギタリスト、アッティラ・ゾラーの「The Birds And The Bees」。悲しくも情深い
旋律に心が慰められる。明らかにわらべうた等の日本音階に触発されたと思われる「Cold Spring」や、スタンダード「Summertime」に
おけるギターの疾走も聴き処だが、何より「Farmer's Trust」の様な美メロをシンプルに奏でる中で生まれる感動は何者にも代え難い。
私的には深い感銘を受けた作品だが、万人に推薦できるかというと正直悩む。全体には2つのギターというこの上なく簡素な編成で演奏
が長時間続く為、その中に美しさ・好奇心を見いだせる人でないときついかも。しかし只流しても良い雰囲気を提供する作品だと思う。
静まり返った夜の部屋でこれを流すと、日中経験した様々な煩わしい想いが消え心地よく眠りに付ける。良い作品に出会えた。
Jim Hall(g-electric)、Pat Metheny(g-electric,Acoustic,Fretless classical,42-string) 1998.7/30-8/2録音