孤高のミュージック・トラベラー、ライ・クーダーによる米国ルーツ・ミュージック発掘研究企画の一枚。この作品ではジャズ、といっても正確にはモダン・ジャズ以前のラグタイムなど黒人大衆音楽の再解釈を行っている。勿論、歴史家の語る歴史が常に彼の視点による現代的文脈の再構成が入り込むように、ここで展開されるのも「ライによるジャズ前史」の現代的解釈である。
エメット・ミラー(黒人に扮して舞台に上がった20世紀初頭の白人ドサ周り芸人)のカヴァーで始まるというのも、「黒人音楽史に言及する白人」としての自分の立ち位置に自覚的なライの姿勢が見て取れる。他の作品でもそうだが、僕はライのこの謙虚さが好きだ。個人的にオススメなのは、カリブ海クレオールの香りが漂う3曲目、ライのギター1本に編曲されたビックス・ バイダーベック(1920年代に活躍したクラリネット/ピアノ奏者、最初の白人ジャズ大成者)のカヴァーである7曲目、哀愁溢れる黒人ヴォードビリアンのカヴァーである9・10曲目あたり。
凄く穏やかで耳に優しい作品なんだが、ジャズの源流に存在する黒人奴隷の歴史と黒人音楽に魅せられた白人達の記憶を記録しようという硬派な男気に溢れた作品でもある。(ジャズ史を扱う場合、どうしても黒人奴隷の歴史に触れざるを得ないため、この時代の音楽は正面から言及されることが少ない。)政治家や歴史家など、言葉を商売とする人間達の薄っぺらなPolitical Correctnessから100万光年隔たったところで、優れたギタリストにしか成し得なかったアメリカ大衆文化史の咀嚼の成果だと思う。深い。