1990年代終わり頃、外資系大規模CDショップのジャズ・コーナー店頭で「NYで激売れのジャズ・コンピ!」と銘打たれて売り出されていたのが、このCDのもとになったジャズ・コンピレーション・アルバム・シリーズである。当時の版元はNYの32Jazzというレーベルであったが、2000年代に入って、ポニーキャニオンからHDCD仕様で日本盤が出た。それが本CDを含むシリーズである。その後、版権が買い取られたのか会社が買収されたのか詳しいことは分からないが、同じシリーズが、今度はサンタモニカのレーベルから2枚組にヴォリューム・アップして発売された。
本シリーズのいずれのCDも、概して、お洒落なデザインなのだが、本作だけは何故かビーチサンダルにビキニの水着、鱗状の透かしの入った人魚の尾ひれのようなキャミソールの女性が雨の中を歩くという、やや先鋭的すぎる感のあるコーディネート、ジャケット・デザインであった。このようなアヴァンギャルドなデザインにする必然性や妥当性には疑問もないではなかったが、日本版では水辺を連想させる水色のデザインになり、若干違和感が緩和されたことに加え、HDCDという特色もみられることから、この日本盤でレヴューすることとした(ジャケットの猥雑さが気にならず、HDCDでなくてよいのであれば、2枚組のほうがお買い得かもしれない。が、私は、元の1枚組輸入版、日本版、2枚組版と3種持っているものの、実際上、時間的都合もあって、2枚組のほうを聴くことはあまりない。)。
本シリーズの楽曲を選曲したのは、大御所DJであり、グラミー受賞歴もある有名プロデューサー、Joel Dornである。そんな訳で、選曲センスは抜群。概して、どのアルバムも、タイトルに掲げられたテーマないしコンセプトとされる状況によく合う音楽が選曲されている。邦題で「雨音」、原題でJazz For A Rainy Afternoonと題された本作も、ピアノ、サックス、ギター、トランペット、コルネット、ヴィブラフォンと、リードをとる楽器は様々であるが、雨の午後にぴったりな、しっとりとした静かな曲・演奏が並ぶ。演奏は全て、よく知られた世界のトップ・ミュージシャンの演奏である。アルバムによっては歌ものが入るものもあるが、本作は、全曲インストゥルメンタルである。
演奏はいずれも名演であるが、私が特に気に入ったのは、冒頭のチャールズ・ブラウン(西海岸ブルース・ピアニストであるが、ニューオーリンズとも縁が深い。その声は好みが分かれるかもしれないが、クリスマスの定番となっている名曲"Please Come Home For Christmas"の作者であり、楽曲はジャズやブルースに詳しくなくても、多くの人が知らず知らずのうちに耳にしていると思う。)のピアノによる"'Round Midnight"の演奏である。言わずと知れたセロニアス・モンク作のスタンダードの名曲であり、私も、モンクのオリジナル版、ジャズ・セッションのお手本的演奏とされるマイルス・デイヴィス版、歌詞をつけて歌われたヴォーカル版など、多くのヴァージョンを聴いたが、このチャールズ・ブラウンのピアノ版を超えて私の心を捉える演奏にはまだ出会っていない。
チャールズ・ブラウンがアメリカの人気ラジオ番組"Piano Jazz"で演奏したCDも基本的には同じアレンジだが、演奏の出来としては、本CDの演奏のほうが出来が良い(もっとも、同CDでは、ラジオ番組の担当者であるジャズ・ピアニストのMarian McPartlandの同曲の演奏が素晴らしく、本CDのチャールズ・ブラウンの演奏と並ぶ私のお気に入りの版となっている)。
私が思うに、多くの"'Round Midnight"の演奏は、モンクのオリジナルに捉われすぎている感があるのだけれど、このチャールズ・ブラウンはアクの強いオリジナルに捉われすぎることなく、かといって崩しすぎることもなく、原曲が本来持つ美しさとピアノの美しさを最大限引き出すことに成功している。このチャールズ・ブラウンのクリスタル・クリアなピアノの響き・タッチ、程よい解釈の、なんと魅力的なことだろう。
そんなこともあって、本作は、同シリーズの他のタイトルとともに、私の愛聴CDであり、就寝前のおやすみCDの一つとなっている。