ロンドン出身の22歳。10代のころからクラブ・ミュージックやR&Bに影響を受け音楽制作を開始。2010年に3枚のEPを立て続け
に発表、その個性が各音楽メディアから急速に注目されこの度待望の初フル・アルバムの発表に至る。
彼の音楽の特徴を一言で集約すると「ブルー・アイド・ソウル+ダブサウンド」といったもの。声の線は決して太くはないが、何処
か儚げな感情を想起させるBlakeの耽美的ファルセットも彼の個性。その上で本作の方向を決定づけているのが、彼の病的なま
での音の拘りだ。音数は決して多くは無いが、音の「間」を絶妙に活かしたビートや諸音響処理への高い美意識。D'angeloに影
響を受けたという割には黒人音楽に特徴的なリズムへの執着は余り感じられない。中にはビートを全く敷かずに彼のエフェクト
処理されたボーカルだけが、宙に浮かぶような特異な楽曲(「Lindisfarne, Pt. 1」)も見受けられる。
彼の音楽が革新的かと言えば決してそうではなく、似た路線の開拓者として90年代半ばに登場した英ブルー・アイド・ソウルの先
輩株Lewis Taylorが居る。しかしLewisがありとあらゆる種類の音を敷きつめる創りであるのに対し、Jamesの場合は空白たっぷ
りの音空間に、人の声・諸楽器・ビートといった少なめの要素をぽつぽつと配置し、それらの響きを十分に活かすという、より推敲
されすっきりとしたサウンド・プロダクションとなっており、両者を知る方にはその対比が興味深いと思われる。
作品中最も衝撃が大きかったのが冒頭の「Unluck」。浮遊感あるキーボードのループに突如変則的に「ドゴン」という音が挟みこ
まれ、背後に鳴るメトロノームの様なクリック・ビートは速度を早めたり遅めたりと落ち着きが無い。そこに乗るBlakeのか細く鳴く
様なボーカル。曲は次第に音数を増すが突如ぶつ切りの様な終わり方。この1曲だけでも十分刺激的だ。
当初は背後のサウンドに耳が行きがちだが、聴き返すうちにBlakeのぼそぼそ呟く声に意外にも愛着が沸くことに気付く。所謂正
統派のソウル歌唱ではないが、彼の内的心象を少しずつ吐露するかの様な声には何か感傷的なものを感じずにはいられない。
彼独特の病的なファルセット・変則的な楽曲構造・メロディー、何より全体を覆う閉塞感は十二分にアクが強く、聴く人によっては
拒絶反応を起こす可能性もある位好みが二分される音楽であることは述べておく。しかし2作目以降、さらに多くの音の引き出し
を見せてくれそうな期待に満ちた力作であるので、気になる方はネット等で試聴してから購入をご検討されると良いだろう。