国鉄民営化と言えば、井手正敬氏(JR西日本)、葛西敬之氏(JR東海)、松田昌士氏(JR東日本)が有名であるが、著者は彼らよりも少し「先輩」にあたり、民営化後のJR東日本の副社長、すなわち生え抜きのトップであった。本書では、JR東日本を真の民間企業に変革していく過程、そして経営者としての苦悩が詳細に描かれている。私のように首都圏で鉄道を日常的に使ってきた者にとっては、JR東日本の民営化後のサービスや事件の背景を知るだけでもおもしろい。
しかし、それ以上に興味深いのは、著者が民間経営について様々な人から謙虚に吸収し、それらを実際に現場に当てはめていく姿である。入社した会社で昇進してきた一般的な日本の経営者は、ここまで謙虚に経営について他社の経営者から学ぶことはないのではないか。そもそも他社の経営者に素直に経営の方法論を聞くことなど許されないのが現実であろう。恐らく、国鉄民営化は国家的プロジェクトであった為、それが許された。その意味で、本書には企業経営の方法論の現場への適用についてのエッセンスが凝縮されている。
経営者的なイメージの強い上記3氏と比べ、著者は技術畑で現場志向が強く、本当に鉄道に対する愛情の深さを感じる。読み終えて清々しい。