ミュージシャンの魅力的な写真というものは、多いようでいて、非常に少ない。それは、写真家が職務的にミュージシャンの写真を撮っていることがおおく、本当にふかくその人となり、あるいはその音楽性に深く関わっていないからに違いない。
中平穂積氏のこの写真集からは、そうした写真家としての職務よりも、ファインダーに映ったミュージシャンたちへの愛情を強く感じる。被写体への敬意、またその音楽性への畏敬が、画面にあふれている。
ジャズ好きがこうじて、ライブハウスを作ってしまったという逸話からもわかるとおり、よりミュージシャンに接近して撮影されたおだやかな表情の作品、それらがこの写真集の魅力を増している。
ジャケットのコルトレーンの写真は彼の神懸かりの音楽性の瞬間を見事につかまえている。あるいはピアノに向かうビル・エヴァンスの孤高の背中。アート・ブレイキーとホレス・シルバーは笑顔が実に愛らしい。私が興味深かったのは、コルトレーンを支え続けたベース奏者ジミー・ギャリソンの数葉の写真である。
写真家は大きく2種類に大別できると思う。風景を切り取る風景写真家と、人間を被写体とする肖像写真家である。中平穂積氏はまさしく後者の王道をすすむ良質な写真家であることを、この写真集は教えてくれる。