英国古楽コンソートの雄、フレットワークの傑作がスペシャルパッケージにて限定発売。厚さ2センチのスリップケースにジュエルケース入りCDとHMF(=ハルモニア・ムンディ・フランス)のカタログを収容。2001年12月、英サフォーク州の歴史的ホール、スネイプ・モルティングにてセッション収録。全20トラック76分13秒。
バッハ晩年の傑作である「フーガの技法」は、その高度な音楽性と謎めいた成立の経緯により、多くの愛好家と研究者を惹き付けてきた。通常は鍵盤楽器による演奏がポピュラーで、本作のような弦楽アンサンブルによるアプローチは少数派といえる。著名なところではエマーソンSQによる録音(DG、2003年)が挙げられるが、おそらくその下敷きとなったのが本作である。
演奏は6本のヴィオールによる重奏。過剰なエモーションを込めないフレットワークらしく、演奏は全体に速めのテンポでサクサクと進む。聞き慣れた旋律がたいへん新鮮に響くのは、鍵盤では表現が難しい詠唱感に満ちているためか。まるでこの楽曲はこの楽器編成を意図したのでは、と思えるほど、どのパートも自然で優しい肌触りに満ちている。
にもかかわらず、ここには近代の弦楽四重奏曲、例えばショスタコーヴィチやバルトークのそれを思わせる緊張感がある。モダン楽器(またはモダン仕様)によるエマーソンSQの演奏も素晴らしいものだったが、個人的にはフレットワーク盤により強く惹かれる。ヴィオール特有のダイナミクスの狭さと「ささくれた倍音」が、謎めいたこの楽曲によくマッチしているのだろう。
一方で、楽曲構造の根幹を成す対位法については、あまり印象に残らない。これは低音楽器の存在感に欠けるためで、モダン楽器のような音の太さと音量が望めないヴィオールの弱点かもしれない。録音も二兎を追うことをせず、楽器の自然なソノリティを優先したもので、個人的にはたいへん好ましく感じたが、別の感想を持つ方もいらっしゃるだろう。
なお付属のカタログは全228頁の豪華版で資料的価値に富み、また眺めているだけでも楽しい。本作を買い漏らしていた方は、ぜひこの機会に。