見た目のそっくりな
ツェルニー編、
ビショッフ編などの解釈版と紛らわしく、勘違いしている方もいますが、この本はバッハの楽譜として最も信頼できる、ベーレンライター新バッハ全集(原典版)を底本としています。
この本の特徴は、原典版(バッハ自身が書いた部分)と編集の市田儀一郎氏が補った部分が、きちんと区別して書かれていることにあります。たとえばバッハ自身が書いた数少ないスラーは実線で、市田氏によるスラー解釈は点線で書かれている、というように。
トリル等の装飾音も、バッハは書いていないが市田氏が、前後の流れから判断して補ったほうが望ましい、としている部分は、編集者補記を意味する角カッコ [ ] で記載されており、原典版の本来の記載が容易に判読できるようになっています。
カデンツ(終止形)、歌い出しなどの記載は当然、編集によるものです。原典版に則っているので、速度記号、強弱等はありません。
通常の30曲に加え、装飾音の処理が問題になるシンフォニア5番では、装飾なし版とあり版、装飾音を音符化した譜例を併記。ほかに巻末に、シンフォニア4,7,9,11,13番に装飾音を付加した、バッハの弟子による異稿を併録しています(これらは原典版にも収録されています)。
解説もバッハのような多声部作品特有の問題や、表現の注意、楽曲構造分析などについて、多くのページを割いて書かれており、大変参考になります。
それから一番の特徴といえるのが、市田流ともいうべき、アンダーラッピング、オーバーラッピング、変え指、スライドといった、独特の運指です。特に3声シンフォニアの難所を弾く際には大いに助けになります。
ただしこれは一つの提案で、手の大きめの人には正攻法運指の方が弾きやすいかもしれないので、そのような方は他版も併せて参考にした方がよいと思います。
バッハ自身は運指を一切指示していないので、「こういう弾き方もあり」という参考にとどめた方がよいでしょう。
各版の比較はリスト マニア「インヴェンション尽くし」に書きましたので、ご参考までに。