量子論という問題をできあがった最先端の理論から説明するのではなく、科学理論を作り上げていこうとする立場から書かれた本である。特に、光の波動説と粒子論との主張、対立と矛盾、原子の構造に関する議論と矛盾、不確定性原理をめぐる思考実験など量子論の形成過程をめぐって論争となった点に焦点をしぼった論述となっている。
登場して来る人物はアインシュタイン、ボーア、ハイゼンベルク、シュレーディンガーなど量子論の著名な科学者たちで、彼らが何を疑い、何を問題にしてきたかが、短編とはいえ、よく描かれている。マンガと銘打ってあるが、マンガの部分はイラストや実験の解説といったものが多く、地の文はかなり読み応えがある。
論争となっている部分に焦点をあてているために、この本一冊で最先端の量子論を理解しようとするには無理があり、「だれでもわかる現代物理」という題名と内容とはズレる可能性はある。高校程度の物理学の予備知識は必要かも知れない。出来上がった理論のわかりやすい解説を求める人には不満かもしれないが、この本の価値は量子論が何を問題にしているのか、何が問題なのかを説明しようとしている点にあり、科学に多少の興味がある人にとっては、知的興奮を与えてくれる本である。評者は文系の出身であるが、量子論についてさらに詳しく知りたいという知的欲求を起こさせてくれる意味でも「量子論入門」にふさわしい本であると思う。