CSR(企業の社会的責任)、すなわち企業の社会に対する責任。社会が変われば責任も変わるとされ、グローバルな課題にも関わらず、グローバルな共通の認識を確立することができないできた。この状況を一変したのがISO26000である。ねじやフィルムといった工業規格、ISO14001で知られる環境マネジメントといったマネジメント規格を手掛けてきた国際標準化機関(ISO)が初めて着手した第三世代の規格である。社会的責任の重要性が提案されてから約10年もの歳月をかけ、2010年秋に発行。先進国および途上国の政府、企業、NGO、労働組合、消費者団体など様々なステークホルダー(利害関係者)が参加し、CSR以上のSR(組織の社会的責任)の定義を定めた意義は大きい。
その一方で、これまでの認証規格(適合性審査を伴うチェックリスト型の規格)とは異なり、「手引き書(ガイダンス規格)」であるISO26000への対処に戸惑う企業・組織も多い。その際に大きなヒントをくれるのが本書である。ISO26000の策定に長く携わってきた筆者ならではの知識・経験・視点から、ISO26000の背景や経緯、思想を伝え、加えて内容を詳細に解説する。社会的責任は「基本の理解が重要」であるという。なぜならば、ISO26000はそれ自体がモノサシである規格ではなく、モノサシを作るための手引書なのである。
「何をどこレベルまでやればよいか」は結局のところ、ステークホルダーの声を聞きながら組織が自ら決めることである。つまり、あくまでも「自分で考えて行動する」ための手引書なのである。(137頁『第6章』冒頭)
この点で、本書にある「『差異はあっても共通の責任』という考え方」(1.3.2)、「ステークホルダー・エンゲージメント」(2.3)および「サプライチェーンとバリューチェーン」(2.4)の重要性、そして国連のラギー報告とその概念(影響の範囲およびデューディリジェンス)など、ISO26000の根幹にある思想を分かりやすく説明する本書は、ISO26000にとどまらず、企業の社会的責任を考える上で必読本である。
確かに、筆者自身も述べている通り「企業の視点が色濃く出ている」部分はある。例えば、労働組合の代表としてISO26000の策定に携わった熊谷氏の著作と読み比べたときに、ISO26000のマルチステークホルダー・プロセスに対する評価に相違がみられる。このような筆者間の個人的見解の幅は、ISO26000の理解に混乱を招くどころか、逆に理解を深めるための対話の源であり、まさに「規格への関心が増して社会的責任に関する議論の活性化」を目指す筆者が狙うところと言えよう。