技術分野で新しくbuzzwordが出てくると、関連書籍が多数出版されます。これらは大きく2つに分類でき、その一つは「何が実現できるか」に焦点をあてたもの、もう一つは「どんな技術で実現されているか」に焦点をあてたものです。前者は主としてユーザーやエグゼクティブ向け、後者はエンジニア向けとなります。
この分類でいくと本書は後者にあたり、IPTVの技術的側面をかなり網羅的に解説しています。本書の冒頭で著者も述べているのですが、このように網羅的にIPTVの全体技術をまとめた書籍は今のところ和書にはなく、本書の長所の一つです。
記述内容自体も良くまとまっているほうだと思います。この手の解説書は即時性が求められるためか、規格書をだらだら抜粋翻訳しただけだったり、複数の執筆者が書いたせいで同じことが複数の場所で述べられていたりするケースがありますが、本書ではそのような不満はありませんでした。
もう一つ、本書の長所はIPTVの国際標準化内容を下敷きに書いている点です。表紙にも書かれているITU-T IPTV-GSIで策定中の標準を中心に、日本のIPTVフォーラム標準についてもふれられています。これらの最新標準化状況をまとめている書籍は洋書を含めてもあまりなく、手っ取り早く全体像を知りたい人には貴重な情報源だと思います。
ただし、IPTV-GSIにしろ、IPTVフォーラムにしろ、IPTVの標準化は進行中の案件であり、最終像はまだ確定していません。また本書の中で紹介されている各国(日本を含む)のIPTV普及情報も、賞味期限があまり長くない情報です。このため、2008年秋の時点では5つ星でも、1年もすると古臭くなる恐れがあります(もしかするとならないかもしれませんが)。数年後に本書を購入される方は、この点注意が必要だと思います。
それから、「出版社からのコメント」にもあるとおり、本書が主として扱っているのは「狭義のIPTV」です。「狭義のIPTV」の定義によればYouTubeとかはIPTVに該当しないことになるので、そのあたりの技術内容を欲している人が読むと「はずれを引いた」と感じるかもしれません。この点も注意が必要です。