インディビジュアル・プロテクションはかつて文庫された際に既読のため、未読だった『ニッポニアニッポン』についてだけ。阿部和重氏はかなり長期に渡って、手法の思考錯誤を続けてきたのだと思う。『シンセミア』『ピストルズ』という大傑作に至るまでの過程は、かなり紆余曲折している。そして本書NNなのだが、確かにしっかり書けている。過剰な自意識と尊大な自己顕示欲の輪郭を、部分的に私小説のような手法を使う事によって作劇に成功している。かつ自らのアイデンディディの根拠を「トキ」と「桜」という女の子の家庭の絡みに設計した点も成功だ。だが、なんというかこう・・・。簡単に言うと、頭だけで考えて作った小説だな〜、という印象がぬぐえない。どうも作者のコア、というか血が騒ぐ要素が、伝わってこない。もっとはっきり言ってしまうと、著者には『シンセミア』の超絶的な凄味に至るプロセスが、見えないのだ。
通常、優れた純文学作家はデビューから才能が枯渇するまでだいたいの人が20年から25年活動する。その間に、エポック・メイキングになる幾つかのポイントに至る変化(成長といっても良い)が見えるものだ。
阿部和重氏は不思議な作家だ。一体どうやって2003年の『シンセミア』の域までジャンプしたのだろう・・?
色々書いてしまったが、著者の才能は今完全に開花し、凄い実力を身に付けたといっていい。とにかくこれからも頑張って、驚くような凄い小説を書いて欲しい。