ジョン・ケイルのことを指して、ルー・リードは半ば悔しげに「あいつは音楽を知り尽くしていた」と言ったらしい。
それは本当だと思う。
しかし一方で私はこうも言ってやりたい。そう言うルー本人は「人間を知り尽くしていた」と。
"Candy Says"をはじめて聴いたとき、言葉が出なかった。
あの1stや2ndの激しく荒々しい曲群で暴れていた人物そのもののようなキャンディ・ダーリンに、
「自分の身体も、この身体が世界にのぞむことのすべても、いやになった」なんていわせるなんて。
これが本当にキャンディの口から出たものなのか、ルーの想像なのか、私は知らない。
しかしいずれにせよドラッグ・クイーンという複雑な人間の内面を、
私のような普通の人にも分かるように伝えられるルーはとんでもない天才に違いないと確信した。
確かに暴力的で凄まじい轟音とノイズの嵐を吹き荒らした"European Son"や"Heroin"、それに"Sister Ray"の方が、
遥かに快楽的で高揚感に満ちていてスリリングだし、ロックンロールの根源的な荒々しい魅力にあふれている。
でもルーがが本当に描きたかったのは、そういった攻撃的な部分だけでなく、
もっと複雑な二面性を持った「人間」そのものではなかったか?
だからあれだけ内省的な"Sunday Morning"を記念すべき最初のアルバムの一曲目に持ってきたし、
ジョン・ケイルが去ったこの3rdは"Pale Blue Eyes"や"Jesus"のような曲を立て続けに書いたのではないか?
……とまぁさすがにこれは完全に私の妄想なのだが、
要するにこのアルバムでは、前二作品にはあまり見られなかったルーの「別の一面」がよく現れていて、
しかもそれが、こちらがあっけに取られるほど美しいのである。
2ndとはまるでバンドそのものが変わってしまったかのようで、一部の人はこき下ろしたりもするが、
なにがともあれ歌詞カードをよく読んで欲しい。
最高にシンプルな歌詞、最高にシンプルな演奏で、
奥深い人間という魔物が描かれている。
これが名盤でなくてなんだろうか。