ジャズ界の名盤とよばれるものの定番やら定説には、怪しいものが相当多いと疑ってかかることにしている。ことにジャズ・ヴォーカルとなると、世間で伝わる名盤のほとんどはレコード会社の陰謀か、我が日本のジャズ・ファンが商業主義メディアに乗せられた偽りの結果だと思う。例えば、エラ・フィッツジェラルドの『イン・ベルリン』、サラ・ヴォーンの『アット・ミスター・ケリーズ』。どっちも確かに大歌手の代表作には違いないから、出来が悪いわけはないが、前者なら『アット・ジ・オペラハウス』のほうが数段いいし、後者には天才サラの全盛時代のライブ録音がこの程度?、と首をかしげたくなるほど“普通の出来”にしか聴こえない。あえて言えば、カーメン・マクレエの『ブック・オブ・バラード』も、他の秀作との差異がさほど際立っているとは思わない。
という訳で前振りが長くなったが、モダン・ジャズヴォーカル・コーラスの開祖にして、空前絶後の境地に達し、偉大な足跡を残した驚異的なユニット、ランバート・ヘンドリックス・&ロスの話をしよう。彼らLH&Rの代表作というと何かの一つ覚えみたいに『シング・ア・ソング・オブ・ベイシー』または『シング・アロング・ウィズ・ベイシー』となって、本作の名前が挙がらない。私にはウソだろうとしか、思えない。何故なら『ザ・ホテスト・ニュー・グループ』が本当に素晴らしすぎるからで、これを越えるジャズ・コーラスのアルバムには出会ったことがないと言い切って構わないほど、稀に見るスリリングなレコーディングなのだ。
演奏は、カーメン・マクレエのバック・バンドでもあったベーシスト、アイク・アイザックを中心にしたトリオ。フィーチュアリング、ベイシー・バンドのスター・トランペッター、ハリー・スウィーツ・エディソン。1曲目の「チャールストン・アレイ」からヒップ! クール! お洒落で絶妙のアンサンブルで、しかもクレイジー!! リーダーのデイブ・ランバートは、ボーカリーズの大家で白人、クレバーな雰囲気に満ちた歌声。ジョン・ヘンドリックスは、ジャズの吟遊詩人と礼賛される才気あふれるアーティスト、アフリカ系らしい粘りっこい歌声。しかしこの二人の声が重なると、何故か響き合って混ざり合って、瞬間どっちがどっちの声かわからなくなり、絶妙にモダンなグルーブが生まれる。そこに“素っ頓きょう”なアニー・ロス(ビリー・ホリデイ入れこんだ白人女性)のハイ・ノートが加わると、えもいわれぬ気持ちいい音楽空間が出現して、聴く者をノック・アウトするのだ。2曲目は、あの「モーニン」。ブレーキー十八番のリフレインに絶妙な歌詞が乗る。3曲目「トゥステッド」は、後にマリーナ・ショーやベット・ミドラー版でも話題になったが、間違いなくこのアニー・ロスの歌が一断トツで一番。バップ・テナー奏者のワーデル・グレイの曲にアニー自身の作詩。ぶっ飛んでトリップする歌詞の内容も素敵。5曲目の「クラウド・バースト」の乗りを聴けば、私の主張が大袈裟でないこともわかっていただけよう。ポインター・シスターズのカバーは殆どこのコピー。後にジャズ・コーラスの大御所となったマンハッタン・トランスファーも、LH&Rに比べると、ジャージーなグルーブや、クリエイティブな表現力で大分劣る。何よりも、天才的な技巧の歌唱を何ということもなく披露するこの三人、そのヴォーカリーズは楽器を凌ぐレベルでスイング。しかしどこかリラックスして、楽しげで、そしてスポンテニアスな、瞬間芸のごとき音の反射神経試し合いにたまらなくシビレる。超ウルトラmax絶対ぐりぐり二重◎の大お薦め盤!!!!! 見つけたら即買うべし。