アーロン・ゴールドバーグは、既にジャズ・ファンにはお馴染みのピアニストのようだが自分は今回初体験。購入の決め手は、試
聴時に耳に入ってきたピアノの美しい旋律。実際蓋を開けたら、魅力的な旋律がたっぷり詰まっていただけでなく、曲調も多彩で飽
きさせず、かつ演奏が予想以上にスリリングで実に楽しめる一枚であった。
彼の演奏は、旋律を軸としたリリカルな奏法を基本としつつ、複雑なリズム隊に旋律を貪欲に絡ませる尖った部分も併せ持った絶
妙なバランスを保っている。収録された10曲は自作曲に加え、アントニオ・カルロス・ジョビン、セロニアス・モンク、スティービー・ワ
ンダーといった偉人達のカヴァーがジャンルを横断して挟まれるが、例えばお馴染みスティービーの「可愛いアイシャ」では、ラテ
ン調の複雑なビートをリズム隊が繰り出し、そこにアーロンが旋律を積極的にぶつける様が聴いていて楽しいことこの上ないし、モ
ンクの「アイ・ミーン・ユー」は3分弱と言う短かい尺ながらもバンドの緊迫感が凝縮され、聴き手の耳に四方八方から各楽器の音が
飛んでくる快感が堪らない名プレイだ。「静」の部分では、彼の自作曲「ザ・サウンド・オヴ・スノウ」の淡々とした曲調の中にチカチカ
ときらめくアーロンのピアノの美しさが印象に残る。
アーロンの話に集中してしまったが、絶えず攻撃的に蠢く旋律がピアノを支えるルーベン・ロジャースのベース、複雑なリズム隊を
叩き出し音楽をより緊張感あるものにしているエリック・ハーランドのドラムの活躍があってこその作品だということは言うに及ばず。
あまり前衛的な方向に走り過ぎていないのでジャズ初心者の方にも入りやすい、間口の広さを持った秀作だ。