2010年のニューベリー賞を受賞した作品。読み応えのある良本だった。
本書を読むまでジョン万次郎についての知識は恥ずかしながらほとんどなかった。漂流しているところをアメリカの船に救助されてハワイに渡った・・その程度の知識しかなかった。事実は小説より奇なりとはよく言ったもので、万次郎が体験したことはまるで冒険小説のようだ。若干14歳の貧しい漁師の息子が海での遭難をきっかけに数奇な運命をたどることになる。アメリカという未知の世界にたったひとりで歩み出さざるを得なかった万次郎の心を支えたのは、いつの日か日本に帰って家族に会いたいという強い思いだけ。
万次郎を養子として引き取った船長の友情に励まされて、彼はいじめや人種差別と闘いながらサムライの精神で物事に対処していく。「日本に帰りたい」という思いが彼の人生を切り拓くことになる。やがて望みが叶ったとき開国を目前にした日本にとって、万次郎は誰も見たことがない世界を一足先に見た貴重な経験者となる。その経験を買われて彼はサムライになったのだ。14歳の遭難者がふと口にした「サムライになりたい」という言葉が図らずもかなえられてしまった。彼の夢は日本にいる限り絶対に実現する類のものではなかったのだが、アメリカンドリームのような大きな夢が帰国したことで実現したのだ。「fall down seven times,get up eight(七転び八起き)」という万次郎の言葉が印象に残った。
辞書にも載っていない船乗りのスラングなどが巻末の用語集にまとめられており役に立った。若い読者は本書から多くのことを学べると思う。