日常の様に新譜に接すると良い音楽というものに対し感覚が麻痺してしまい、昔のように大きな感動に出会うことが少
なくなった気がする。それでも尚時折「おっ」と思わせる力を持つ音楽に出会えた時の喜びはひとしおだ。
カントリー・シンガーGillian Welch(ギリアン・ウェルチ)の最新作「The Harrow & the Harvest」はまさにそんな驚きをく
れた作品、地味な装いながら良質なメロディ・歌・演奏が三拍子揃った傑作だ。
90年代半ばのデビュー以来定期的に上質な作品を産みだしてきた彼女だが、2003年発表の前作「Sou Journey」以降
長期的な制作スランプに陥っていた模様。しかし実に8年振りに落とされた本盤に収められた穏やかな10曲には、そんな
産みの苦しみ等微塵も感じさせない。懐かしさを感じさせるメロディには、既にスタンダードの風格も感じられる。
演奏はGillian自身と、彼女の音楽活動で不可欠なパートナーDavid Rawlingsが奏でるギター・バンジョー等の二重奏が
中心となる。二人の活き活きとしたアンサンブルはぱっと聴きの印象以上に複雑に構成され、各々が奏でる旋律の絡み
合いは耳を澄ませ聞き返す毎に発見がある。また豊潤に鳴るギター・ハーモニカ・バンジョーといった諸楽器の音色を堪
能させる優秀な録音であり、演奏の素晴らしさをより際立たせている。
Lucinda Williamsを思わせるGillianの素朴でハスキーな歌唱には華やかさ等微塵もないが、自ら弾くギターが産み出すグ
ルーヴに積極的に切り込むリ鋭いリズム感を持ち、何よりその落ち着いた語りには誠実さが宿り聴く人の心を癒す様。
相方のDavidと織り成すコーラスの相性もぴったりで、ただその心地よさの虜にさせてくれる。
音楽シーンに新たな流れを創り出す作品ではないが、時代に沙汰されることなく静かに愛され残っていく名盤だと思う。