フランスのピアニスト、フランソワ=フレデリク・ギイ(Francois-Frederic Guy 1969-)によるリスト(Franz Liszt 1811-1886)の「詩的で宗教的な調べ」(全10曲)と「ピアノ・ソナタ」を収録した2枚組アルバム。2010年録音。ギイは1989年のミュンヘン国際音楽コンクールで審査員特別賞を受賞し注目されたピアニストだそうだが、日本国内での知名度はほとんどないと言っていいだろう。私もこのアルバムで、初めて彼の名を知った。
収録曲中で注目されるのは、「詩的で宗教的な調べ」の名による10曲からなる曲集で、というのも全曲録音したアルバムというのがほとんどないからである。リストが、ラマルティーヌ(Alphonse de Lamartine1790-1869)の同名の詩集に感銘を受けて、そこからタイトルを引用したもので、1845年から52年頃にかけて作曲された。10曲の個別のタイトルを記す。第1曲「祈り」、第2曲「アヴェ・マリア」、第3曲「孤独のなかの神の祝福」、第4曲「死者の追憶」、第5曲「パーテル・ノステル」、第6曲「眠りから覚めた御子への賛歌」、第7曲「葬送」、第8曲「パレストリーナによるミゼレーレ」、第9曲「アンダンテ・ラクリモーソ」、第10曲「愛の賛歌」となる。
有名な作品としてよく単独で取り上げられるのが第3曲で、次いで第7曲、第9曲も演奏機会はあるが、他の曲となると、私もこれまで聴いたことがなかったほどで、そういった背景もあって、このギイのアルバムを興味深く聴かせてもらった。なお、第2曲、第5曲、第6曲は同名の男声合唱曲からの編曲で、第8曲はパレストリーナ(Giovanni Pierluigi da Palestrina 1525-1594)の聖歌の主題を用いている。
晩年のリストはこの作品群にひとかたならぬ愛着を持っていたとされる。宗教的、瞑想的なベースに、リスト特有のヴィルトゥオジティを配した楽曲は、この作曲家の個性を端緒に感じさせるものだが、一方で、曲によっては単調な物憂さを感じさせてしまう側面もある。だが、その玉石混交的な雰囲気も含めて、リストの「らしさ」を象徴しているとも思う。
ギイのテクニックはヴィルトゥオジティの発揮というより、確かな安定感を感じさせるもので、第1曲のいかにもリストらしいノン・レガートのオクターヴ連打音など、ソノリティの均質性が高く、音響も豊かに感じられる。また、粒だった音色が、全般に厳かな雰囲気を導いているのも、曲想に相応しいと言えるだろう。高名な第3曲も焦らずに自分の間合いで確信をもって弾き通したような、芯を感じさせる演奏になっている。また、ピアノ・ソナタとダイナミックな表現力も十分で、様々に活躍を期待させるピアニストだ。
全般に、1曲1曲の「長さ」もあって、まったく退屈しないとは言い難いのだけれど、演奏については、特に不満点を見出す人は多くない優れたものと言えるだろう。これらの録音数自体が少ないジャンルにあって、非常に良心的でベーシックな演奏を心掛けたものとも言える。加えて、私はこのディスクから、晩年のリストの宗教的な思索に触れるような感覚を楽しむことができた。
特にリストの音楽を、ゆっくり時間をかけて楽しみたい人には、問題なく推薦できるアルバムだ。