これまでのすべての敵を否定するかのような、圧倒的な強さを誇っていた王、メルエム。
「こんなん勝てねーよ……」と読者みんなが思っていただろうし、反面「どうやって倒すんだ?」と想像をふくらませてもいたでしょう。俺もそうでした。
その結果が、ここにあります。
なぜ『王』は王であったのか。王とは何なのか。彼自身が問い続けてきた答えが、すべて彼自身に返ってくるのです。
何より衝撃的だったのが、パームと王の対話。
「ただ頼むだけ」の王と、それを拒絶するパーム。この構図、どこかで見ませんでしたか?
そう、26巻のゴンとピトーです。あの時ピトーは、跪いてコムギを守ろうとしました。それに対し、ゴンは行き場のない思いをデタラメにぶつけていました。それが間違いであると気づきながらも。
パームは、人とアリとの境目に立ってしまった。それは人間であるキルアたちへの思いと、アリである王への思い(忠誠)、両方を抱いてしまったということ。
もし人間のままだったなら、キルアとの約束を優先し、残酷な決断を下していたでしょう。人間が残酷であることは、作中でもパーム自身が語っていました。
しかし、アリであること、王への忠誠が何かをわかっているから、王が頭を垂れることの重さ、境界線を理解してしまっている。
それ故に、パームは王の気持ちを汲み取る。
アリがアリでなくなっていき、ヒトがヒトの道を外れていく。ピトーは母性愛を手にし、プフは献身を手にし、ユピーは人間臭い「矛盾」を手にした。
そして王は、すべてを受け入れる愛情、彼自身も言っていた「神の領域」を掴みかけていた。
しかし、「ほんの少し違っただけ」で――ネテロが対話を受け入れなかったから、ゴンがピトーを倒したから、コムギと出会ったから――王は王でなくなり、『メルエム』となった。
そしてメルエムは、ヒトであるコムギの下へと寄り添う。彼は、誰しもが探している『帰る場所』を見つけた、幸せ者なのだろう。
言ってしまえば、メルエムは死ぬために生まれた。死ぬ瞬間のために生まれた。彼はそう悟った。
でもその瞬間とは、何よりも美しい『愛情』を見つけた瞬間だったのである。
だからこその『薔薇』であり、『蝶』であったのかもしれない。
長々といろんなことを書いてしまいましたが、それほどにこの巻を通じて感じた思いが大きい、ということなんです。
安っぽい感想ですが、何回読んでも泣きそうになります。